勉強が好きな子がいちばん大きく減るのは、
小4のあとではなく、中学に上がるときでした。
「9歳の壁」「小4の壁」という言葉を、よく目にするようになりました。この言葉がどこから来たのか。小4の前後に、データでは何が起きているのか。順に並べてみました。
年中から小学校4年生くらいのお子さんがいるご家庭に向けて書いています。
- 「9歳の壁」は、もともと聾学校の教育現場で使われていた言葉です。一般に広く知られるようになったのは2009年ごろからです
- 勉強が「好き」と答えた子は、小4で66.8%、中2で36.6%。減り幅がいちばん大きいのは、小6から中1にかけてでした(2014年の調査)
- 同じ子を毎年追う埼玉県の調査では、学力が伸びた子の割合が最も多いのは小4から小5にかけてでした(2018年の報告書)
- 私の考えは、「やらせる」より「一緒にやる」。壁の中身は計算よりも、読むことと、使うものを選ぶことだと考えています
動画でも見られます(7分46秒)
「9歳の壁」は、聾学校の教育現場で生まれた言葉です
この言葉を名付けたのは、東京教育大学附属聾学校の校長だった萩原浅五郎氏とされています。聴覚に障害のある子どもが、低学年までは順調に伸びても、学習が抽象的になる高学年で壁に当たりやすい。もとは、その現象を指す言葉でした。
聴覚障害教育の専門書では、この壁はどの子にも見られるものとしたうえで、聾教育の現場がいち早く指摘してきたと整理されています。同じ本は、壁を日常の話し言葉から、教科書の書き言葉への移り変わりとして論じています。
- はじまり 聾学校の教育現場で使われる 聴覚に障害のある子どもが、抽象的な学習でつまずきやすいことを指した言葉でした。
- 2009年6月 国の懇談会の資料に登場する 文部科学省の「子どもの徳育に関する懇談会」の資料に、発達の個人差が目立つ時期として、いわゆる「9歳の壁」が書かれました。
- 2009年6月 テレビの特集で広く知られる NHK「クローズアップ現代」が「10歳の壁」を取り上げ、一般に知られるきっかけになったと紹介されています。
- 2015年 → 2022年 子育ての情報を、SNSから得る親が増える 首都圏の幼児の母親で、子育ての情報源にSNSを挙げた人は22.1%から49.8%に増えました。
国の資料では、9歳以降を小学校の高学年として扱っています。物事を少し離れたところから見られるようになり、自分のことも客観的に見はじめる。その一方で、発達の個人差が目立つようになり、劣等感を持ちやすくなる時期だと書かれています。
ここで一つ、ずれがあります。国の資料は「9歳以降の高学年」と書いていますが、世の中では主に小3から小4の話として使われています。呼び方も「9歳の壁」「10歳の壁」「小4の壁」と揺れていて、同じ言葉でも、指している学年がそろっていません。
さらに「小4の壁」は、親の側の話としても使われます。放課後児童クラブ(学童)に入れずに待っている子が最も多い学年は、小学4年生です。子どもがぶつかる壁と、預け先がなくなる親の壁が、同じ名前で呼ばれています。
小4の前後で、実際に変わること
言葉から離れて、小4の前後で何が変わるのかを学年ごとに並べてみます。
算数の内容は、教材会社の解説と、学校の授業の指導案によります。
算数では、小4で分数の種類や同じ分母の分数のたし算・ひき算、小数、概数、面積などを学びます。「以上・以下・未満」といった新しい言葉も増えます。割合を使って2つの量を比べる単元もあります。
習い事は、小1から小4までは水泳が1位で、小5と小6では受験や補習のための塾が1位でした。別の財団の調査でも、小3・4年までは水泳が1位、小5・6年では学習塾が1位という同じ傾向が出ています。
睡眠は、学年が上がるほど寝る時刻が遅くなり、眠る時間が短くなります。小4から小6の平日の睡眠は平均8時間23分という調査があり、国の睡眠ガイドが小学生にすすめる9〜12時間には届いていません。
中学受験を考える家庭では、大手の塾で小3の2月から本格的な受験勉強が始まります。これは前回の記事に詳しく書きました。
勉強が「好き」な子が大きく減るのは、中学に上がるとき
小学4年生から中学2年生までの子どもに、勉強が好きかどうかを聞いた2014年の調査があります。「とても好き」と「まあ好き」を合わせた割合は、次のように変わりました。
学年ごとの減り幅は、小4→小5が4.0ポイント、小5→小6が7.2ポイント、小6→中1が16.8ポイント、中1→中2が2.2ポイントです。
小4から小5にかけても減ってはいますが、いちばん大きく減るのは、小6から中1の間です。2016年の同じ研究グループの調査でも、「中学進学で勉強嫌いが急増」と報じられていました。
同じ2014年の調査には、もう一つ目を引く結果があります。「誰でも努力すれば勉強が得意になれる」と答えた子は、小4の81.6%から中2の61.9%まで、学年が上がるにつれて下がっていきます。一方で、保護者の答えは学年が変わってもほとんど変わりませんでした。
小4の子は、親よりも「努力すればできる」と思っています。その気持ちが、学年とともに少しずつ下がっていく。国の資料にある「自分を客観的に見はじめる」時期の姿と重なります。
この10年で、小学生の答えも変わっている
2025年の調査では、小4から小6で勉強が好きと答えた子は、2016年の68.5%から53.1%に下がっていました。勉強する理由の変化も見えます。
同じ子を毎年追うと、小4から小5はよく伸びる1年だった
埼玉県は、小学4年生から中学3年生までの同じ子どもを毎年調べて、一人ひとりの学力がどれだけ伸びたかを見ています。問題の難しさをそろえて比べる方法を使っているので、学年が違っても伸びを比べられます。
2018年の報告書(2015〜2018年度の調査)では、学力が伸びた子の割合が最も多いのは小4から小5にかけてで、最も少ないのは中1から中2にかけてでした。県は、中学で教科ごとに先生が変わるなど、学習や生活の環境が変わることを理由に挙げています。
同じ報告書は、小5から小6にかけて伸びた子の割合が減ることにも触れています。その理由として、国語で複数の資料を読んで書く問題が増えることや、算数で割合など内容の抽象度が上がることを挙げていました。
もう一つ、算数についての分析があります。学力が下位4分の1にいる子は、学年が上がるほど、そこから抜け出しにくくなる。だからこそ、早い段階でのつまずきを残さないことが一層大事になる、とまとめられています。
2025年度の報告書では、国語と数学で、おおむね6割5分から8割5分の子が前の年より学力を伸ばしていました。
壁を感じたのは、計算ではなく文章の量だった
私は5歳ごろから公文に通い、小学3年生の時点で、中学で習う方程式まで進んでいました。低学年のころは、公文と、日能研の通信プリント。それに水泳とピアノ。取り組んでいたのはそれくらいです。
小4になる前後から四谷大塚に通い始めました。そのころを振り返っても、「9歳の壁」と呼ばれるものを感じた記憶はありません。
戸惑ったのは、四谷大塚の予習シリーズを初めて開いたときです。公文で解いてきた計算とは違って、文章がびっしり書かれたテキストを読むことに困りました。それでも、通信プリントで漢字や文法にある程度触れていたので、なんとかついていくことができました。
私の場合、公文の計算と通信プリントは、予習シリーズにかろうじてついていくための土台になりました。ただ、壁を感じた場所は計算ではなく、読む量でした。
塾のない町から、地域の上位校へ
北海道の、近くに塾がないほどの町で育った生徒がいました。外でよく遊ぶ子で、習い事は一切していませんでした。中学受験もしていません。
私がその生徒を見はじめたのは、中学2年生のときです。その時点で、成績はすでに上位にありました。そこから高校受験まで一緒に勉強し、地域の上位校に進学しました。
一人の例なので、ここから一般的なことは言えません。ただ、小学生のころに塾や先取りがなくても、伸びていく子はいます。反対に、早くから多くのことに取り組んでいても、壁にぶつかる子もいます。どちらも、私が実際に見てきたことです。
データと、私の見聞きを照らし合わせる
一致すること
- 親の関わり方で差が出る、という点です。幼児の親子を調べた研究では、子どもと楽しい経験を分かち合う「共有型」のしつけを受けた子は語彙の得点が高く、言うとおりに従わせる「強制型」の子は低い傾向がありました。強制型では、所得の高い家庭でも語彙の得点が低くなっていました
- 全国学力調査の保護者調査でも、自分でできることは自分でさせる家庭や、よいところをほめて自信を持たせる家庭の子は、学力が高い傾向がありました
- 家庭の経済的な条件が厳しくても、学力が高い子は一定数います。小学生では、経済的な条件が下位4分の1の子のうち10.6%が、学力の上位4分の1に入っていました。そうした子には、規則正しい生活習慣、最後までやり抜く力、幼いころの絵本の読み聞かせが関係していました
- 外で遊ぶことについては、就学前から外遊びを勧める親の働きかけが、その後の探究する力に良い影響を与えていた、という全国調査があります
- ご褒美や叱ることで勉強させる点についても、方向は同じです。128本の実験をまとめた研究では、物のご褒美は、自分からやりたい気持ちを下げていました。その影響は、大学生より子どもで強く出ています。先ほどの「叱られたくないから勉強する」子が増えている結果とも重なります
ずれること
- 「小4で急に壁がある」という見方とは、データの向きが違います。埼玉県の調査では小4から小5は最も伸びる時期で、勉強が好きな子が大きく減るのは中学に上がるときでした
- 「早くからやっておけば安心」とも言い切れません。海外の6つの追跡データでは、小学校に入る時点の算数の力が、その後の成績を最もよく予測していました。ただ、分析した研究者自身が、早い時期の力とその後の成績を結ぶ因果の確認はこれからだとしています。また、早い時期に上乗せした学習の効果は、時間とともに薄れることが広く見られています
- 言葉でほめることは、全体では意欲を高めていました。ただし子どもでは、大学生ほどは高まっていません。「ほめれば大丈夫」とも言い切れないということです
- 「9歳の壁」は新しくできた言葉ではありません。聾教育の現場で使われてきた言葉が、もとの意味を越えて広がっています
確かめられないこと
- 壁の手前にいる小1から小3の子ども本人が、勉強をどう感じているかです。今回見た大規模な調査では、「勉強が好きか」を小1から小3には聞いていませんでした
- 「小4を境に学力が二極化する」という話は、全国のデータでは確かめられませんでした。全国学力調査の対象は、小学6年生と中学3年生です
- 埼玉県の「小4から小5が最も伸びる」という結果は、一つの県の公立校で、2015〜2018年度のデータです。最新の報告書で、学年ごとの順位までは確認できていません
- 習い事をしていない子を直接追いかけた研究は、見つけられませんでした
- 親子のしつけと語彙の研究や、保護者調査の結果は、主に「関連がある」ことを示したものです
- 「年中・年長の子は、特に親にほめてもらいたがる」という点は、私の見聞きです。これをそのまま示した資料は見つけられていません
それでも私は、「やらせる」より「一緒にやる」ほうを選びます
私も親です。そのうえで、9歳の壁は、小4で突然現れる崖というより、低学年までの積み重ねと、家での関わり方が表に出てくる時期だと考えています。
割り算も割合も、計算としては四則演算です。私が戸惑ったのは、計算ではなく読む量でした。埼玉県の調査でも、同じ割り算に小数や分数が入ったり、与えられた数字から必要なものを選んだりすると、問題の難しさが上がると設定されています。壁の中身は、読むことと、使うものを選ぶことだと私は見ています。
同じだけ取り組んでいても壁にぶつかる子がいて、塾がなくても伸びる子がいる。その差を分けるものの一つが、親の関わり方だと考えています。「勉強しなさい」と繰り返すと、勉強は義務になります。親にほめてもらうため、叱られないための勉強になってしまう子もいます。
私がすすめたいのは、一緒にやることです。
- 遊びに行くときも、行き先を子どもに調べてもらう
- 行った先でおいしいものを食べるなら、なぜその場所でその食べ物がおいしいのか、なぜお店が多いのかを、地理として一緒に調べる
- 旅行の前に、その土地の歴史を一緒に調べておく
外で元気に遊ばせるだけでも、机に向かわせるだけでもなく、その間をつなぐ関わり方です。
「9歳の壁」という言葉を見かけて不安になったときは、言葉の響きで決める前に、もとの意味と数字を確かめてほしいと思います。何をどこまでやるかを決めるのは、それぞれのご家庭です。
次の週末の行き先を、子どもと一緒に調べてみる
大がかりな準備はいりません。近所の公園でも、図書館でも、少し遠くの町でも構いません。次の週末に出かける先を一つ決めて、次の順に進めてみてください。文字がまだ読めない年齢なら、読むところは親が手伝います。
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行き先の候補を、子どもに2つ挙げてもらう親が決めた場所ではなく、子どもが行きたい場所から始めます。候補 1:
候補 2: -
地図で、場所と行き方を一緒に見るどうやって行くか、どれくらい時間がかかるかを、子どもに探してもらいます。行き方:
かかる時間: -
「なぜ」を一つだけ決めて、一緒に調べるその場所で何が有名か。なぜその食べ物がおいしいのか。その土地にどんな歴史があるのか。一つで十分です。調べる「なぜ」:
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行った先で、調べたことを確かめる実際に見たり食べたりして、調べたことと同じだったか、違ったかを話します。分かったこと:
うまく調べられなくても構いません。大事なのは、子どもが自分で調べて、親がそれを一緒に楽しむことだと思っています。
- 「9歳の壁」は、聾学校の教育現場で生まれた言葉。いまは、指している学年がそろわないまま広がっています。
- 勉強が好きな子がいちばん大きく減るのは、小6から中1にかけて。2014年の調査で、16.8ポイントの差でした。
- 同じ子を追う埼玉県の調査では、小4から小5がよく伸びる1年だった。一方で、算数は学年が進むほど差が固まりやすくなります。
- ご褒美や叱ることで動かすと、自分からやる気持ちは下がりやすい。「叱られたくないから勉強する」子は、この10年で増えています。
- 私の考えは、「やらせる」より「一緒にやる」。まずは次の週末の行き先を、子どもと一緒に調べるところからです。
小学5年生から先のこと
小学5年生から高校3年生までは、ラーニングPM で見ています。ここで書いているのは、その手前の時間の話です。中学3年生まで見てきたからこそ、もっと前に何があったのかが気になっています。
- 脇中起余子『「9歳の壁」を越えるために──生活言語から学習言語への移行を考える』北大路書房(出版社の紹介ページ)
- 萩原浅五郎氏の命名について:日能研「KEYNOTE」、加藤直樹『少年期の壁を越える』(新日本出版社)を参照した解説記事
- 文部科学省 子どもの徳育に関する懇談会「審議の概要」(素案、2009年6月)
- NHK「クローズアップ現代」(2009年6月)の特集については、教育サイトの記事による
- ベネッセ教育総合研究所「第6回 幼児の生活アンケート」(首都圏)
- こども家庭庁 放課後児童クラブの実施状況(2025年)
- 学研教室「小学4年生の算数」コラム/小学校第4学年 算数科 学習指導案(2024年)
- 学研教育総合研究所「小学生白書」2023年調査(習い事)、2025年調査(就寝時刻)
- 笹川スポーツ財団「子どもの習いごと」
- ベネッセ教育総合研究所・早稲田大学「子どもの生活リズムと健康・学習習慣に関する調査2021」
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(博報堂教育財団こども研究所の記事による)
- 四谷大塚 公式サイト「新4年生予習シリーズ準備講座」
- ベネッセ教育総合研究所「小中学生の学びに関する実態調査」速報版(2014年)
- 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2016(日本経済新聞の報道による)、2025(リセマムの記事による)
- 埼玉県教育委員会「埼玉県学力・学習状況調査報告書」(2018年12月)、「令和7年度 埼玉県学力・学習状況調査報告書」
- 内田伸子「日本の子どもの育ちに影を落とす日本社会の経済格差」学術の動向(2010年4月)
- 国立教育政策研究所「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」(平成29年度、お茶の水女子大学)
- 文部科学省「令和4年度 学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」、全国的な学力調査に関する専門家会議(2023年6月)の報告
- 国立青少年教育振興機構 調査研究の概要
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6)
- Duncan, G. J., et al. (2007). School readiness and later achievement. Developmental Psychology, 43(6)
- Bailey, D. H., Duncan, G. J., Cunha, F., Foorman, B. R., & Yeager, D. S. (2020). Persistence and fade-out of educational-intervention effects. Psychological Science in the Public Interest, 21(2)
- 「私の場合」「私が見てきた生徒の話」「私の考え」は、私個人の経験と見聞きによるものです。生徒の話は、本人が特定されないよう地域や学校をぼかしています
