「うちの子は目で覚えるタイプ」に、根拠はありませんでした。

LEARNING PM PRELUDE ── 06

「うちの子は目で覚えるタイプ」に、
根拠はありませんでした。

ただし、否定されているのは一部だけです。お子さんに好みがあること自体は、否定されていません。

年中から小学校4年生くらいのお子さんがいるご家庭に向けて書いています。

先に結論です
  • お子さんに好みがあること自体は、否定されていません。あなたの観察は間違っていません
  • 根拠が確かめられていないのは、「その好みに合わせて教えると、成績が上がる」という部分だけです
  • では、教える側は何を見ているのか。統一された答えは、まだありません。国も研究していますが、進んでいません
  • だから、聞いてみるしかない。質問は1つで足ります

動画でも見られます(5分56秒)

聞いたことがあると思います

「うちの子は、目で見たほうが覚える」
「この子は耳から入るタイプ」
「体を動かしながらのほうが頭に入るみたい」

こういう言い方を、聞いたことがあると思います。私も、保護者の方からよく伺います。

これは「学習スタイル」と呼ばれる考え方です。視覚型・聴覚型・体感型といった分類で、その子に合った方法で教えれば効率よく学べる、とされています。

かなり広く信じられています。ある調査では、イギリスの教師の93%、オランダの教師の96%が、この考え方を正しいと答えたと報告されています。

そして、根拠は確かめられていません。

ここが肝心です

何が否定されているのか

ここは正確に書きます。否定されているのは、一部だけです。

人には情報の受け取り方に好みがある否定されていません
学ぶ力には個人差がある否定されていません
好みに合わせて教えると、成績が上がる根拠が確かめられていません
!

あなたがお子さんを見て感じていることは、否定されていません。否定されているのは、それに合わせて教え方を変えれば伸びる、という部分です。研究の世界では「メッシング仮説」と呼ばれています。

どう確かめられたか

2008年に、Pashler らの研究チームが、この仮説を検証した70本以上の研究を調べました。

検証には条件があります。「クロスオーバー交互作用」という統計的な結果が必要です。分かりやすく言うと、Aグループ(視覚型)に最も効く教え方と、Bグループ(聴覚型)に最も効く教え方が、別でなければならないということです。

この設計は、実は理論の側に有利にできています。一方のグループの全員が、もう一方の全員より成績が良くても、仮説は成立しうるからです。それぞれが自分に合った形式で相対的に良ければいい。

それでも、条件を満たす研究はほとんど見つかりませんでした。

現時点で、学習スタイル評価を一般的な教育実践に組み込むことを正当化する十分なエビデンス基盤はない ── Pashler et al. (2008) の結論

そして研究チームは、限られた教育資源は、根拠のはっきりしている他の方法に使ったほうがいいと提言しています。

神経神話

「神経神話」という言葉があります

学習スタイルは、「神経神話(neuromyths)」の一つに数えられています。脳科学をよそおっていますが、科学的な根拠が乏しい俗説のことです。

  • 人間は脳の10%しか使っていない
  • 男脳・女脳
  • 3歳までに脳が決まる
  • その子に合った学習スタイルがある

OECDが2007年に『脳からみた学習』という報告書を出し、その一章で神経神話の払拭を扱っています。日本神経科学学会も、脳の働きについて一般社会に不正確あるいは拡大解釈的な情報が広がっている、という趣旨の声明を出しています。

3つ目の「3歳までに脳が決まる」は、早期教育の根拠としてよく使われるものです。年中のお子さんがいるご家庭なら、目にしたことがあるかもしれません。

では何を見るか

では、何を見ればいいのか

学習スタイルの研究を整理した記事に、効果的な個別対応は何によって起こるかが書かれています。

  • 既有知識(その子が、すでに何を分かっているか)
  • 課題の難易度(今の力に対して、簡単すぎないか、難しすぎないか)
  • 間隔をあけた復習
  • 思い出す練習

好みではなく、どこまで分かっているか。そちらを見るべきだ、ということです。

2本目の記事でも、同じところに行き当たりました 英語力の全国調査で効いていたのは、開始時期ではなく「授業がよく分かること」でした。 英語は小3から始まりました。では、早く始めた子は強くなったのか
本題です

ところが、その「見る」に答えがありません

「どこまで分かっているかを見ましょう」と言われても、どうやって見るのかが書かれていません。

研究の側でも、そこで止まっています

形成的評価(授業の途中で、生徒の状況を見て指導を調整すること)の研究で知られる Dylan Wiliam は、こう述べています。

形成的評価を「形成的評価」と呼んだのは大きな間違いだった。「responsive teaching(応答する教え方)」のような名前にすべきだった ── Dylan Wiliam

技術の寄せ集めではなく、生徒のニーズに応答することこそが目的だ、という意味です。ただ、何を見て応答するのかは、そこから先に書かれていません。

国の委託研究でも、同じです

2本目の記事で使った、全国学力・学習状況調査の英語の分析を思い出します。この研究では、家庭の経済的な背景が厳しいのに英語の成績が高い学校を6校訪問し、何が違うのかを調べています。そこで得られた結論の一つが、これでした。

指導者が目の前の生徒をよく見て、適切な指導を施している ── 令和5年度 全国学力・学習状況調査 英語の専門的分析より

「よく見て」です。6校を訪問した国の委託研究の結論が、ここで止まっています。

書いた研究者が手を抜いたわけではないと思います。言葉にできる形で、まだ存在していないのだと思います。

国も研究していますが、進んでいません

「ラーニングアナリティクス」という分野があります。学習の履歴をデータとして集め、分析して指導に生かす研究です。文部科学省やデジタル庁など4省庁が「教育DXロードマップ」を策定し、国を挙げて推進しています。

ただ、データの収集、分析、ツール間の連携のいずれの場面でも課題が多く、当初に期待されたほど活用は広がっていないとされています。大学でも、蓄積された学習履歴の多くが整理・構造化されていないままです。

「見る」を仕組みにする試みは進行中で、まだ途中です。

私の場合

私がやっていることと、その限界

ここで、自分の話を書きます。これが正解だと言うためではありません。統一された答えがない中で、私はこうしている、という例として読んでください。

測る対象を変えました

理解度は、外からは見えません。「分かった?」と聞いて「分かった」と返ってきても、それが本当かどうかは分かりません。

そこで、測るものを変えました。私がその項目に、どれだけ手を貸したかです。

  • 問いかけただけで届いたのか
  • 道すじを示したのか
  • 私が答えを言ってしまったのか

これなら、外から数えられます。授業を録音して、1回分を扱った内容ごとに切り分けます。1回で10〜16項目になります。それぞれに3段階で判定を付けています。

判定の基準は、本体のブログで全部公開しています。中学生向けに書いたものですが、どういう根拠でどの段階と判断しているかは、そこで確かめられます。

判定基準を公開した記事(ラーニングPM)

ただし、限界があります
  • 1対1だからできます。40人の教室では、一人ひとりの項目を切り分けることはできません
  • 録音しているからできます。記憶では、10項目も正確に思い出せません
  • 時間がかかります。1回の授業のあとに、切り分けと判定の作業があります

学校の先生に「同じことをやってください」とは、とても言えません。そして、この方法が本当に有効かどうかも、私が証明したわけではありません。自分の生徒の中で、そう感じているというだけです。

断定している記事は、疑ったほうがいいと思っています それは自分の記事についても同じです。情報の確かめ方については、こちらに書きました。 その情報、どうやって確かめますか
で、どうしますか

確かめる方法は、1つで足ります

統一された答えがない以上、確かめるしかありません。そして、確かめる方法は1つで足ります。

質問はこれだけです
「それを、どうやって判断されましたか」

お子さんが今、何かに通っているなら、次の面談や声かけのときに聞いてみてください。これから教室を選ぶときにも、体験のあとに同じことが聞けます。

たとえば「この子は算数の文章題が苦手ですね」と言われたとします。そこで、こう返します。「それは、どうやって判断されましたか」

答えが返ってくるかどうかで、見ているかどうかが分かります。

私なら、こう答えます

「録音を項目に切り分けて、私がどれだけ手を貸したかを3段階で付けています。文章題の項目で、私が道すじを示した回数が多かったので、そう判断しました」

答えの中身が正しいかどうかは、私にも分かりません。ただ、答えられる状態にあるかどうかは、聞けば分かります。

「なんとなく」「経験上」で終わるなら、それはそれで正直な答えです。悪いことではありません。ただ、そこから先の話はできないということです。

この記事で分かったこと
  • お子さんに好みがあることは、否定されていません。否定されているのは「好みに合わせて教えると伸びる」という部分だけです。
  • 見るべきなのは、好みではなく「どこまで分かっているか」。既有知識と課題の難易度です。
  • ただし、それをどう見るかに、統一された答えはまだありません。国の委託研究の結論も「よく見て」で止まっています。
  • だから、聞いてみるしかありません。「それを、どうやって判断されましたか」の1つで足ります。

小学5年生から先のこと

小学5年生から高校3年生までは、ラーニングPM で見ています。ここで書いているのは、その手前の時間の話です。中学3年生まで見てきたからこそ、もっと前に何があったのかが気になっています。

この記事で参照したもの
  • Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest
  • 学習スタイルを「神経神話」と分類した記述は、Willingham, Hughes, & Dobolyi (2015) ほか複数の研究によります
  • 教師の信念に関する割合(イギリス93%・オランダ96%)は、ある調査の報告を二次的に引用したものです。原典を直接確認したものではありません
  • OECD『脳からみた学習 ─新しい学習科学の誕生』(2007年)
  • Dylan Wiliam の発言は、形成的評価に関する解説記事で広く引用されているものによります
  • 文部科学省「令和5年度全国学力・学習状況調査の英語の結果を活用した専門的な分析」(横浜国立大学/令和6年3月29日)
  • ラーニングアナリティクスの現状については、九州大学・国立情報学研究所の公開情報、および2026年6月開催の教育イベントの報告記事によります
  • 「私がやっていること」として書いた部分は、私個人の実践であり、その有効性が第三者に検証されたものではありません
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