授業のあと届くレポートの、判定基準を全部公開します。

授業のウラガワ ── 番外編

授業のあと届くレポートの、
判定基準を全部公開します。

ある保護者の方から、以前こう言われました。「書いてあることの根拠が乏しくて、何も伝わってこない」。もっともな指摘でした。そこでレポートを一から作り直し、判定の基準そのものを決め直しました。この記事は、その基準の全文と、実際に届くものの中身です。物語ではなく、仕様書として読んでいただければと思います。

【2026年8月29日 改訂】公開当初、この記事に載せていた5段階の定義が、実際の運用と1段ずれていました。具体的には「講師が答えまで説明した」をCとして書いていましたが、正しくはB3です。Cは別の意味で使っています(後述)。仕様書として出している記事で、仕様そのものが間違っていました。現行の定義に修正し、判定手順とサンプルも合わせて直しています。

授業が終わると、ご家庭には2種類の資料が届きます。生徒本人が使う復習用の資料と、保護者の方が読む報告用の資料です。中身は同じ授業から作られていますが、書き方も、使う言葉も、目的も違います。

以前のものは、正直に言って出来がよくありませんでした。「よく理解できていました」「あと少しです」といった言葉が並ぶだけで、なぜそう言えるのかが書かれていなかったのです。講師が口頭で補って初めて成立する資料でした。それは資料とは呼べません。

指摘を受けて考え直したとき、問題は文章の書き方ではないと分かりました。そもそも、何を測っているのかが定義されていなかった。だから根拠が書けなかったのです。ここから直すことにしました。

仕様 1
測っているのは、理解度ではありません

最初に、一番誤解されやすいところをはっきりさせておきます。このレポートの判定は、お子さんの理解度を採点したものではありません。測っているのは、こちらです。

その項目に対して、講師がどれだけ手を貸したか。

理解度は、外から見ることができません。「分かった?」と聞けば、たいていの子は「分かった」と答えます。それは嘘をついているのではなく、本人にも分かっていないからです。分かったつもりと分かったの区別は、本人が一番つきにくい。

一方で、講師が何を言ったかは、記録に残る事実です。促しただけなのか、着眼点を渡したのか、答えまで言ってしまったのか。ここだけを見て判定すれば、誰が何回やっても同じ結果になります。主観を混ぜないために、あえて理解度を測るのをやめました。

言い換えると。判定が低い項目は「できていない項目」ではなく、まだ講師の手が要っている項目です。手が要らなくなった状態を自力と呼び、そこへ近づいていく過程を記録しています。

仕様 2
4つの目盛りと、もう1つの別枠

手の貸し方を、A・B1・B2・B3の4段階で刻んでいます。基準はすべて「講師が何をしたか」で書かれていて、生徒の様子や印象は入りません。

そしてもう1つ、Cがあります。CはA〜B3の続きではありません。ここが一番間違えやすいところなので、表でも分けています。

判定スケール(A〜B3は同じ道の目盛り/Cだけは別の軸)
段階
講師がしたこと
生徒がしたこと
A
手を貸していない。問いかけたあと、追加で何も足していない
その場で、自分の言葉で説明し切った
B1
問いかけただけ。「もう一回見て」など、中身のない促しにとどめた
問いかけをきっかけに、自分で答えまでたどり着いた
B2
方向づけをした。どこを見るか、どう考えるかの道すじを示した
示された道すじに乗って、自分で答えに到達した
B3
答えを説明した。方向づけでは届かず、講師が答えまで話した
答えを自分で口にしていない
C
その項目に入る前の段階で止まっていた。前提が足りず、その項目自体に取り組める状態になかった
その項目の手前で詰まっている
B3とCの違いが、この基準のキモです。B3は「その項目には取り組めたが、答えまで自力で行けなかった」。Cは「そもそもその項目に入れなかった」。同じ手が掛かった項目でも、戻る先がまったく違います。B3は同じ項目をもう一度やればいい。Cは、前の単元に戻る必要があります。

この5つには、順番に判定するための手順があります。迷いようのないところから先に確定させるためです。

■ 判定は、必ずこの順で行います
1
その項目に、取り組める状態だったか?
前提となる知識や手順が無く、その項目の手前で止まっていたなら、そこで確定します。手の貸し方は問いません。
いいえ → C(ここで終了)
2
講師は、最初の問いかけ以降なにか足したか?
一言も足さずに、生徒が自分の言葉で説明し切ったなら、そこで確定します。
いいえ → A(ここで終了)
3
足したものは、どれくらい重かったか?
中身のない促しだけならB1。どこを見るかの方向づけまで渡したならB2。答えそのものを説明したならB3。
B1・B2・B3(重さで振り分け)

CとAは判断に迷う余地がありません。だから先に取ります。残ったものだけを、渡した情報の重さで刻んでいきます。

仕様 3
Aは、かなり厳しく取っています

Aの条件は「やり取りの往復がゼロ」です。一度問いかけて、そのまま説明し切った場合だけ。「うーん」と言ったので講師が一言添えた、その時点でAではなくなります。

厳しすぎるように見えると思います。実際、新しい単元に入った回のA率は、1割を切ることも珍しくありません。丸ごと新しい内容を扱った日は、0件のこともあります。それでもこの線を動かさないのには理由があります。

テストの本番には、隣に誰もいないからです。

「もう一回見て」と言ってくれる人がいない状況で解けるかどうか。それがAの意味です。ここを甘くすると、レポートの数字は綺麗になりますが、テストの点数とのつながりが切れます。

ですので、A率の低さは悪い知らせではありません。新しい単元を丸ごと導入した回は、A率が下がり、手を貸した項目が増えるのが自然です。見ていただきたいのは1回の数字ではなく、同じ単元を扱った回を重ねたときの動き方です。

仕様 4
一番大事にしているのは、実はB1です

この段階を作ったとき、自分でも最初は「B1は軽いから、復習の対象から外してもいいのでは」と考えました。促しただけで届いたのなら、もうできているようなものだろう、と。

これは間違いでした。

「もう一回見て」の一言があるかないかで結果が変わる。
そこが、定着までで一番しんどい場所です。

B1というのは、知識はある、手順も分かっている、それでも自分では気づけなかったという状態です。あと一歩で自力になる。逆に言えば、放っておけば次も同じところで止まります。そして本人はB1で止まったことに気づきません。答えは出せているからです。

だから復習の対象はA以外すべて。B1も必ず入れます。ここを拾い上げるためにこの段階を作った、と言ってもいいくらいです。B1をBの中に埋もれさせないために、わざわざB1・B2・B3と3つに割っています。

仕様 5
1つの数字にまとめず、3つで見ます

「自走できているか」を1つの点数にまとめてしまうと、中身が消えます。Aが少なくてもB1に厚みがあるのと、B3ばかりなのとでは、状況がまったく違うからです。ですので3つの数字と、分布そのものを毎回お出ししています。

■ その回の分布と3指標(再現サンプル・全10項目)
A 2
B1 2
B2 3
B3 2
C 1
帯が左に寄るほど、講師の手が要らなくなっている状態です。右端のCだけは別枠で、前の段階に戻る必要がある項目を示します。
20.0%
A率 = 手を貸さずに説明し切れた項目の割合
10.0%
C率 = その項目の手前で止まっていた割合
2.7
重心 = 分布全体の位置。小さいほど自力に近い

この3つが揃うと、たとえばこういう読み方ができます。A率が上がっていないのに重心だけ下がっている。これはB3だった項目がB2やB1へ動いている、つまり土台ができ始めている状態です。A率だけを見ていたら「変化なし」に見えてしまいます。

C率は、他とは違う読み方をします。ここが高い回は、その日の教え方の問題ではなく、もっと前の単元に穴が残っているという合図です。今やっている範囲を繰り返しても埋まりません。

実際に届くもの
実物を、再現してお見せします

以下はすべて再現サンプルです。実在の生徒の資料ではありません。実際のレポートと同じ構造・同じ書式で、単元・項目・数値・発言をこちらで作成したものです。個人が特定されうる内容は掲載していません。

まず、生徒本人が使う復習用の資料から。その回に扱ったことを全項目、一つも省かずに並べます。上澄みだけを載せると、載らなかった項目が存在しなかったことになるからです。

生徒用|今日の学習マップ(全10項目/中2数学・一次関数)
L01
一次関数の式 y=ax+b の各文字が表すもの
A
L02
変化の割合の定義
A
L03
傾きの符号とグラフの向きの対応グラフを右上がりに描いたが、「その式もう一度見て」の一言で自分から符号に気づき、描き直せた。
B1
L04
2点の座標から式を求める「座標がちょうど整数になる点を2つ探して」という着眼点を渡したあとは、代入も計算も自力で進めた。
B1
L05
グラフから式を読み取る切片は自力で読めたが、傾きの読み取り方を「縦にいくつ・横にいくつ」で確認したうえで完成させた。
B2
L06
変域のある一次関数端の点を代入するという方針を示し、それに沿って両端を計算した。
B2
L07
2直線の交点を求める「連立方程式にして解く」という方針を示したうえで、計算自体は正確に完了した。
B2
L08
文章題:水そうの水量の変化表を式に直すところで手が止まり、講師が式の立て方を最後まで説明した。
B3
L09
交点の座標が持つ意味(追いつく時刻)グラフの交点が何を表すかを問うたが答えに至らず、講師が意味を最後まで説明した。
B3
L10
動点問題の場合分け場合分け以前に、点がどう動くかを図に表す段階で止まっていた。この項目より前に戻る必要がある。
C

各項目にぶら下がっている一文が、「どこまでは自分で行けたのか」です。判定の記号だけだと結果しか分かりませんが、これがあると次に何を潰せばいいかが本人にも読めます。L10だけは、同じ問題を解き直しても意味がありません。戻る先が違うからです。

このあとに、A以外の全項目について確認用の問題・ヒント・合格の基準が続きます。合格基準は「①○○と答えられる ②△△と説明できる。この2点で合格」という形に固定してあり、答え合わせを本人ひとりで完結できるようにしています。解答は最後にまとめて置き、途中では見られないようにしています。

保護者の方に届くものは、書き方が違います

保護者の方に必要なのは問題演習ではなく、今どういう状態で、なぜそう言えるのかです。ですので報告用の資料は、すべての記述を3つの層に分けて書いています。冒頭で指摘を受けた「根拠が乏しい」への、直接の答えがここです。

保護者用|今回いちばん手を貸した項目(L09/段階B3)
結論
グラフの交点を「計算の答え」としてしか見ておらず、場面の意味と結びついていません。
根拠
交点の座標は正しく求められましたが、その数値が何を表しているかを問うたところ、手が止まりました。計算手順は身についている一方で、式と現実の場面が別々のものとして扱われています。
証拠
00:41:22 講師「この交点のx座標って、何の時間だと思う?」/生徒「……分かんない」

結論だけなら、誰でも書けます。根拠がついて初めて検証できるものになり、実際のやり取りが引用されて初めて、書き手の主観が入る余地がなくなります。時刻が入っているのは、必要ならその場面を後から確認できるようにするためです。

報告用の資料には、このほかに分布と3指標、当日ホワイトボードに書いた図、そして次回の授業で講師が口頭で確認する質問が載ります。この質問は事前に公開しています。抜き打ちにしないのは、家庭で予行演習ができるようにするためです。

これから
カンバンとの連動を、いま準備しています

あるご家庭で、学習の進捗をカンバンボード(やることを付箋で並べ、完了したら移動させる方式)で管理し始めました。そこで出てきたご要望が、こういうものでした。

本人が「完了」にした付箋を、
本当に完了なのか確かめてほしい。

もっともな話です。「終わった」は自己申告です。解けたつもりで先に進んでしまうと、あとでまとめて崩れます。かといって、ご家庭で毎回口頭確認をするのは現実的ではありません。

そこで、授業の冒頭で完了申告の出ている項目を口頭で確認し、その結果を同じ基準で判定して返す仕組みを準備しています。Aが取れたら完了として消す。取れなければ、やることリストの先頭に戻す。判定基準はここまで説明してきたものと同一で、追加のルールはありません。

この部分は、まだ実運用で試せていません。資料の側の準備は済んでいますが、実際の授業で通したことがまだ一度もない段階です。動かしてみて分かることが必ず出ると思いますので、結果は改めて書きます。うまくいかなかった場合も、そのように書きます。
基準は公開し、仕組みは公開しません

ここまで判定の基準をすべて書きましたが、これを毎回の授業から自動で作り出している部分については書いていません。項目をどう拾い、過去の記録とどう突き合わせ、どう資料の形にしているか。そこは公開の対象外にしています。

もっとも、隠す意味はそれほど大きくないとも思っています。この基準は、真似しても機能しません。判定するには、授業中に講師が何を言ったかが全部残っている必要があります。促しだったのか、方向づけだったのか、答えだったのか。その区別ができる記録がなければ、この段階分けはただの言葉です。

そして、過去の記録は後から作れません。今日から貯め始めたものだけが、来年の材料になります。回を重ねて初めて「この単元は、この子の場合B3からB1まで平均何回かかるのか」といったことが見えてきます。そこまで来て、ようやく指導の側が予測を持てるようになる。今はまだ、その手前です。

なぜ基準を公開しているか
  • 検証できないものは、信用に値しないから。判定がおかしいと思われたときに、「この基準に照らして、この項目はB2ではなくB3では」と指摘できる状態にしておきたい。
  • 間違っていたら直すため。実際この記事も、公開後に定義のずれが見つかって書き直しています。基準を出していなければ、ずれていることにも気づけませんでした。
  • 数字の意味をご家庭と揃えるため。A率が低い回の意味を、毎回口頭で説明し直さなくて済みます。

そのための仕様書として、この記事を置いておきます。

今どこまで自力で行けているか、一度見てみませんか

体験授業でも、同じ基準でレポートをお出しします。ご相談だけでも構いません。今のお子さんの状況を、一緒に確認するところから始めます。

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