点数が上がった日に、
3か月分の途中式を褒めました。
中学3年生の多項式の計算です。その生徒は、途中式を省き、符号も数字も崩して書いていました。3か月かけて書き方が変わり、定期テストの点数が上がりました。答案が返ってきた日に私が言葉にしたのは、点数が上がるまでの3か月のほうです。
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自信 1 / 3
前回の記事の終わりに、次回から柱④「揺るぎない自信」に入ると書きました。柱④では、生徒が「自分はできる」と思えるようになるために、授業でしていることを書きます。1本目は、褒め方の話です。
宿題の写真で気づいた、途中式の書き方
授業のあとは、宿題を写真で送ってもらっています。その生徒の写真には、途中式がほとんどありませんでした。書いてあっても字がくちゃくちゃで、符号が抜けている。数字も崩れていて、本人が読み返せる状態ではありませんでした。
途中を飛ばすと、計算ミスが起きやすくなります。間違えたあとに見直しても、どこで間違えたのかを自分で探せません。
= x² - 2x + 15
= x² - 5x + 3x - 15
= x² - 2x - 15
※ 書き方の違いを見せるための例です。この生徒の答案ではありません。
「書かないと、どうなる?」と先に聞いた
最初に、本人に聞きました。
返ってきたのは「書くのがめんどくさい」でした。
そこで理由を説明しました。途中を書かないと、計算ミスが起きやすいこと。間違えたときに、どこで間違えたかを自分で見つけられないこと。
本人は面倒くさそうでした。ただ、数学の点数が上がらないことは、本人も気にしていました。しぶしぶでしたが、途中式を書き始めました。
何年も続けてきた書き方は、直るまでに3か月かかった
すぐには直りませんでした。数字を書き始めたころから続けてきた書き方です。書くようになったと思ったら、また崩れる。そのたびに注意しました。かなりしつこく、何度も言いました。
宿題の写真は毎回見ていたので、どこが直ってきたかも、その都度確かめていました。
- 1宿題の写真で気づく途中式がない。符号が抜ける。数字が崩れて、本人が読み返せない。
- 2理由を渡す「書かないと、どうなる?」と先に聞き、そのあとで理由を説明する。
- 33か月、言い続ける崩れるたびに注意する。直ってきたところを、毎回の写真で確かめる。
- 4定期テストが返ってくる点数は30点近く上がっていた。
点数より先に、3か月の書き方を言葉にした
定期テストが返ってきて、点数は30点近く上がっていました。計算問題の多い範囲だったこともあります。それでも、はっきり効いたと思いました。
答案が返ってきたら褒めようと、前から決めていました。かける言葉はいくつか考えられます。「点数が上がったね」「ミスがなくなったね」。どちらも本当です。ただ、どちらも結果です。
結果を褒めるのも大事です。この3か月を見てきたので、点数がどこから来ているかも分かっていました。途中式を書くようになったことが、点数につながっていました。
だから、先にそこを言いました。
生徒は、うれしそうでした。
生徒が見てほしいのは、外から見えにくいところ
- 宿題を出した
- 点数が上がった・下がった
- ミスが減った
- 途中式を書くようになった
- 符号を書き落とさなくなった
- 数字を崩さずに書くようになった
宿題を出したことや、点数の上がり下がりは、見れば分かります。保護者の方にも、学校の先生にも分かります。
書き方が変わったことは、毎回の宿題を見ている人にしか分かりません。そして、生徒が本当に見てほしいのは、こちらのほうだと思っています。
「直したから取れた」を、自分で言えるように
その生徒は、口数の多い子ではありませんでした。褒めたあとに、もう一つ伝えました。
授業をしていて、自分で言える子は伸びが早いと感じています。ここまでやったけど、ここができていない。ここを直すには、どうすればいいか。そこまで自分で言える子は、聞いた直し方をすぐに試そうとします。自分で聞いたことだからです。だから、効果が出るのも早い。
頑張ったことをアピールする必要はありません。何を直したからできるようになったのかを、自分の言葉で言えればいいと思っています。
まず講師が見つけて、直ったらその都度褒める
とはいえ、「言ってごらん」と言って言えるなら、苦労はしません。
自分で言えない子には、まず私が見つけて、指摘します。指摘したあとも見続けて、直ったところがあれば、その都度そこを褒めます。
見えないところを見つけるのは、講師にとっても簡単ではありません。最初は講師が見つけて言葉にする。それを繰り返すうちに、本人が自分で見つけて言えるようになってほしいと考えています。
自信のいちばんの材料は、自分でできた経験
「自分はできる」という感覚を、心理学では自己効力感と呼びます。提唱者のバンデューラは、自己効力感は4つの材料から作られると考えました。そのうち最も強いのは、本人が自分の過去の達成をどう受け取ったか、だとしています。学校での研究を見直したレビューでも、多くの場合はこの達成の経験がいちばん大きく効いていました。ただし、その強さは教科や本人の学力などによって変わるとされています。
点数が上がったことを「たまたま」と受け取るか、「書き方を直したから」と受け取るか。その受け取り方を言葉にして渡すのが、あの日の褒め言葉の役目だったと考えています。
本人に向けた褒め言葉は、いちばん効きにくい
フィードバックの研究では、4つの水準に分ける整理がよく使われます。課題の出来、取り組み方、自分で自分を調整すること、本人そのもの、の4つです。このうち本人そのものに向けたもの、教室ではたいてい褒め言葉の形をとるものが、いちばん効きにくいとされています。それなのに、教師がいちばん多く使っているのもこの種類です。
調整すること
※ 言葉の当てはめは、私が行いました。
この整理には大きな批判もあり、のちに作り直されています。2020年のメタ分析では、フィードバックの効き目は中程度で、含まれる情報の中身によって大きく変わる、という結果でした。
「点数が上がったね、すごいじゃん」には、次に何をすればいいかの情報が入っていません。「途中式を書くようになったから取れた」には、その情報が入っています。
中高生には、「頑張ったね」だけだと裏目に出ることがある
褒め方の研究には、結論が割れているところがあります。それでも、重なっているところもあります。褒め方を3つに分けて並べます。
私の褒め方は「3か月かけて」と努力にも触れていますが、言葉の中心は「途中式を書くようになった」という、身についたやり方です。研究が勧めている形に近いと思います。ただ、この生徒が「3か月かけて」をどう受け取ったかまでは、確かめていません。
「やり方を直した」と言える子は、次も直せる
自分で学習を進められる学習者の研究では、学習を、計画・実行・振り返りの3段階の繰り返しとして捉えます。振り返りの段階では、自分の出来を評価し、その原因を考えます。結果の原因を、使ったやり方のように自分で変えられるものに求めると、別のやり方を試せばいいと考えられるので、意欲が続きやすいとされています。
自分で言える子は伸びが早い、という私の実感は、ここで言われていることに近いと思います。
この章の出典 Usher & Pajares (2008)/Hattie & Timperley (2007)/Wisniewski, Zierer & Hattie (2020)/Mueller & Dweck (1998)/Amemiya & Wang (2018)/Schunk (1983)/Zimmerman (2002)
確かめられていないこと
「自分で言える子は伸びが早い」は、私が授業で感じていることです。数字で確かめたものは、まだありません。
過程を褒められるのは、過程を見ていたときだけ
この褒め方には前提があります。3か月、宿題の写真を毎回見て、どこが直ってきたかを確かめていたことです。見ていたから、点数が上がった日に「途中式を書くようになったから」と言えました。
褒め言葉の研究をまとめたレビューは、褒め言葉が意欲を高めるのは、まず本心からの言葉だと受け取られたときだと整理しています。そのうえで、結果を本人が変えられる原因に結びつけていることなどが条件に挙がっています。
見ていない過程を褒めると、根拠のない褒め言葉になります。保護者の方に向けた本で、講師の「ばっちりですね」には根拠を聞いてほしいと書きました。生徒に向ける褒め言葉も同じだと考えています。
- 宿題の写真で、途中式の書き方まで見る。
- 書かない理由を、先に本人に言わせてから説明する。
- 崩れたら、そのたびに言う。直るまで3か月かかる前提で見ます。
- 点数が上がった日に、点数の手前で変わったものを言葉にする。
- 自分で言えない子には、まず講師が見つけて指摘する。直ったら、その都度褒めます。
次回は、柱④の2本目です。
点数の手前で、何が変わったかを見ています
点数が上がったか下がったかは、答案を見れば分かります。その手前で何が変わったかを見るには、毎回の授業と宿題を追う必要があります。まずは無料相談で、お子さんが今どこでつまずいているかを、一緒に確認しませんか。
- Usher, E. L., & Pajares, F. (2008). Sources of self-efficacy in school: Critical review of the literature and future directions. Review of Educational Research, 78(4), 751–796.
- Hattie, J., & Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112.
- Wisniewski, B., Zierer, K., & Hattie, J. (2020). The power of feedback revisited: A meta-analysis of educational feedback research. Frontiers in Psychology, 10, 3087.
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
- Amemiya, J., & Wang, M.-T. (2018). Why effort praise can backfire in adolescence. Child Development Perspectives, 12(3), 199–203.
- Schunk, D. H. (1983). Ability versus effort attributional feedback: Differential effects on self-efficacy and achievement. Journal of Educational Psychology, 75, 848–856.
- Zimmerman, B. J. (2002). Becoming a self-regulated learner: An overview. Theory Into Practice, 41(2), 64–70.
- Henderlong, J., & Lepper, M. R. (2002). The effects of praise on children’s intrinsic motivation: A review and synthesis. Psychological Bulletin, 128(5), 774–795.
- 授業の場面は、掲載について保護者の了承を得たうえで、個人が特定されないように書いています。点数の変化は、この生徒の定期テストの結果です。
