毎回の要約を、やめました。手を貸す回数を、わざと減らしたからです。

授業のウラガワ ── 19

毎回の要約を、やめました。
手を貸す回数を、わざと減らしたからです。

社会の歴史の授業です。流れを丁寧に組んで、最初と最後に要約して渡していました。それでも記述が取れない。そこで、手を貸す回数を意図的に減らしました。保護者の方にも、すぐに気づかれました。

柱①脳に優しい
インプット
柱②なるほどを
つくる変換術
柱③ 迷子にさせない
伴走
2 / 2
柱④揺るぎない
自信

前回の記事の終わりに、次は「生徒の手が止まりかけた瞬間に、問いかけの難しさをその場で下げていく技法」について書く、と予告しました。

手を貸す量を、生徒の様子に合わせて上げ下げする。今回の技法の半分は、たしかにそれです。ただ、書こうとして振り返ると、私がいちばん迷ってきたのは下げる側ではなく、手を引く側でした。今回は、そちらから書きます。

やっていたこと

丁寧に組んで、丁寧に渡していた

その生徒とは、社会の歴史を一緒にやっていました。中学2年の終わりごろのことです。

当時の授業は、こういう形でした。冒頭で「今日はここをやるよ」と要点を話す。時代の流れは私が組み立てて、出来事と出来事をつなぐエピソードも、こちらで用意して渡す。途中は質問で誘導して、終わりにもう一度要約する。

丁寧な授業だったと思います。生徒も、その場ではうなずいていました。ところが、定期テストの記述問題は、ほぼ0点のままでした。

仮説

流れを全部こちらが組むから、「なぜ?」が生まれない

いろいろ試しても定着しない。そこで、ひとつの仮説を立てました。

お膳立てをしすぎているから、考えなくなっているのではないか。

時代の流れも、エピソードも、授業に来た時点で出来上がっている。だから生徒の側に「なぜこうなったんだろう」と思う場面がない。そして、次に何をするかを私が言うのを待つ、指示待ちの状態になりつつありました。

このときはまだ、研究で何が言われているかを調べていませんでした。あくまで、授業を見ていての仮説です。

変えたこと

要約をやめて、今の自分をしゃべらせた

まず、冒頭と終わりの要約をやめました。代わりに、授業の最初にこう聞くようにしました。

「前回はこうだったけど、今回の時代と比べると、どういう違いが見られるかな」

予習はさせていません。ただ、学校ではすでに習っている範囲でした。授業を始める前に、今の自分がどこまで分かっているかを、本人に確かめさせるためです。

そのうえで、本人が考えていることを先にしゃべらせました。私からの質問での誘導は意図的に減らし、ヒントの数も減らしました。止まっても、すぐには助けずに、あえて一緒に立ち止まりました。

以前の授業
講師が組んで、講師が渡す
  1. 講師「今日はここをやるよ」と要点を話す
  2. 講師時代の流れとエピソードを組んで渡す
  3. 講師質問で答えのほうへ誘導する
  4. 講師最後にもう一度要約する
生徒はうなずく。記述はほぼ0点
変えたあと
生徒が先に話し、講師は待つ
  1. 講師「前回と比べて、どんな違いがある?」とだけ聞く
  2. 生徒今の自分の考えを、先にしゃべる
  3. 生徒どういう流れで説明するかを、自分で組む
  4. 待つ止まっても、誘導とヒントは減らしたまま
要約は、講師からは出さない

私からの手助けが減ったので、生徒は自分で考えなければならなくなりました。次はどういう流れで、相手に説明すればいいか。以前の授業では、そこを考える必要がありませんでした。

保護者から

「あれ? 介入の回数、減りましたよね」

変えてすぐに、保護者の方から声をかけられました。クレームではありません。ただ、授業で私が手を貸す回数が減ったことに、はっきり気づかれていました。

私は事情を話しました。これは仮説ですが、と前置きしたうえで、流れをすべてこちらで組んでいるので、本人が「なぜ」と考える場面がないこと。指示を待つ状態になりつつあること。自分で考えさせるために、意図的に回数を減らし、ヒントを減らし、あえて立ち止まっていること。

話を聞いて、納得していただけました。

!

手を貸している様子は、外から見えます。考えさせている時間は、外からは見えにくい。だから手を引くときは、何のために引いているのかを、先に言葉にしておく必要があると感じました。

半年後

記述は、30点中15点以上取れるようになった

このやり方で、中学3年の夏休みごろまで、半年ほど続けました。定期テストの記述問題の点数は、こう変わりました。

定期テストの記述問題(30点満点)
変える前ほぼ0点
半年後15点以上(部分点の△も残る)

1マス=1点。半年後は15点を下回らなくなった、という意味で15マスを塗っています。

まだ粗削りです。要点をつかみきれず、△になった答案もありました。それでも、ほぼ書けなかった状態から、自分で流れを組んで書く答案が出てくるようになりました。

社会以外の教科では、まだ同じことを試していません。この生徒の、この単元で起きたことです。手を減らしたこと以外にも、学年が上がったことなど、点数に影響したものはあったはずです。「手を引けば伸びる」と言いたいわけではありません。ただ、自分で考えてみる作業が必要だということは、この半年ではっきりしました。
研究では

足場は、外すところまでが足場です

あとになって調べると、この迷いは研究でも正面から扱われていました。

学習者が一人ではできない課題を、大人が一時的に支えることを「足場かけ(スキャフォールディング)」と呼びます。その研究をまとめたレビューは、足場かけの中心となる特徴を3つに整理しています。

特徴 1
相手に合わせる
生徒の今の理解に合わせて、支え方を変える。失敗したら支えを強め、うまくいったら弱める。
特徴 2
支えを減らしていく
理解が進むにつれて、支える量を少しずつ減らす。
特徴 3
責任を生徒に渡す
最後は、課題への責任を生徒の側に移す。これが足場かけの目的とされています。

「手を貸すこと」は、3つのうちの1つにすぎません。残りの2つは、手を引いていく話です。

手厚さが、逆に働くことがある

教育心理学には「熟達化逆転効果」と呼ばれる現象があります。慣れていない学習者にはよく効く手厚い教え方が、経験を積んだ学習者には効かなくなり、かえって悪い影響が出ることがある、というものです。多くの研究で確かめられていて、学習者の知識が増えるにつれて教え方を変える必要がある、とされています。

手を貸すか、控えるかは、「アシスタンス・ジレンマ」とも呼ばれています。手を貸すと、生徒が自分では思いつかない情報を渡せる。その代わり、取り組みが浅くなったり、記憶に残りにくくなったりする。控えると自分で考えさせられる。その代わり、行き詰まって時間を無駄にさせるおそれがある。どちらにも、得るものと失うものがあります。

12〜15歳の生徒768人を対象にした、社会科の教室での実験もあります。手を貸す頻度が高い状況では、生徒に細かく合わせた支援より、あまり合わせない支援のほうが、成績と取り組みの両方で良い結果でした。研究者は、足場かけは無条件に効くわけではない、とまとめています。

私が授業で感じていた「お膳立てしすぎると考えなくなる」は、ここで言われている「取り組みが浅くなる」に近いと思います。ただ、「考えなくなる」ことそのものを測った研究を、私はまだ見つけられていません。ここは私の実感として書いておきます。

この章の出典 van de Pol, Volman & Beishuizen (2010) Educational Psychology Review/Kalyuga, Ayres, Chandler & Sweller (2003) Educational Psychologist/Koedinger & Aleven (2007) Educational Psychology Review/van de Pol, Volman, Oort & Beishuizen (2015) Instructional Science
線引き

手を引いていいのは、手がかりが本人の中にあるときだけ

ここで大事な注意があります。手を離せば伸びる、という話ではありません。

前提になる知識が少ない学習者には、しっかりした指導のほうが効きます。その優位が薄れはじめるのは、学習者が自分の中に手がかりを持てるくらいの知識を身につけてから、とされています。

今回うまくいったのは、学校で一度習った範囲だったからだと考えています。「前回と今回で何が違う?」と聞かれても、答えるための材料が、生徒の中にゼロではありませんでした。何も持っていない単元で同じことをしたら、ただ迷わせるだけだったはずです。

手を引く前に、確かめていること
材料は、本人の中にあるか
学校で習った、読んだ、前に扱った。何か一つでも手がかりがあるか。なければ、先に渡します。
つまずいているのは、何の部分か
用語や事実(WHAT)が抜けているなら、手を引いても埋まりません。前回の線引きと同じで、自分で考えさせるのは、なぜ(WHY)やどうやるか(HOW)の部分です。
できているかを確かめるのは、誰か
手を引くのは、考える部分です。できているかどうかを確かめる部分は、こちらが持ち続けます。

最後の一つは、授業の外でも同じように考えています。家で一人で取り組む仕組みも、「考えるのは本人、確かめるのはこちら」という形で組んでいます。

この半年のこと

手厚くすることと、伸ばすことは、同じではなかった

手を貸すほど、授業は丁寧に見えます。生徒もその場ではうなずきます。ただ、それがテストの答案に出てくるとは限りませんでした。

この半年でやったのは、手を貸す量を増やすことではなく、減らしても大丈夫なところを見極めて、減らすことでした。

この授業で、実際にやっていたこと
  • 冒頭と終わりの要約をやめる。流れを先に渡すと、「なぜ」と思う場面がなくなるからです。
  • 最初に「前回と何が違う?」と聞く。授業の前に、今の自分の立ち位置を本人に確かめさせます。
  • 誘導の質問とヒントを減らし、止まっても待つ。次にどう説明するかを、本人に組ませます。
  • 手を引く理由を、保護者に先に伝える。考えさせている時間は、外からは見えにくいからです。
  • 手を引くのは、手がかりが本人の中にあるときだけ。確かめる役は、こちらが持ち続けます。

次回からは柱④「揺るぎない自信」に入ります。

手厚い授業を受けているのに、書けない理由があります

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この記事で参照したもの
  • van de Pol, J., Volman, M., & Beishuizen, J. (2010). Scaffolding in teacher–student interaction: A decade of research. Educational Psychology Review, 22, 271–296.
  • Kalyuga, S., Ayres, P., Chandler, P., & Sweller, J. (2003). The expertise reversal effect. Educational Psychologist, 38(1), 23–31.
  • Koedinger, K. R., & Aleven, V. (2007). Exploring the assistance dilemma in experiments with Cognitive Tutors. Educational Psychology Review, 19(3), 239–264.
  • van de Pol, J., Volman, M., Oort, F., & Beishuizen, J. (2015). The effects of scaffolding in the classroom: support contingency and student independent working time in relation to student achievement, task effort and appreciation of support. Instructional Science, 43(5), 615–641.
  • Kirschner, P. A., Sweller, J., & Clark, R. E. (2006). Why minimal guidance during instruction does not work. Educational Psychologist, 41(2), 75–86.
  • 授業の場面は、掲載について保護者の了承を得たうえで、個人が特定されないように書いています。点数の変化は、この生徒の定期テストの結果です
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