大人が何度も挑戦する姿を見た子どもは、自分でも粘り強く挑戦しました。

LEARNING PM PRELUDE ── 11

大人が何度も挑戦する姿を見た子どもは、
自分でも粘り強く挑戦しました。

「勉強しなさい」と言う前に、親自身が学ぶ姿を見せることに意味はあるのか。大人の学び直しの実態と、子どもへの影響を調べた研究を並べてみました。

年中から小学校4年生くらいのお子さんがいるご家庭に向けて書いています。

先に結論です
  • 1歳3か月ごろの子どもを対象にした実験で、大人が何度も工夫して挑戦する姿を見た子は、そうでない子より多く挑戦しました
  • 学ばなかった大人の理由で最も多いのは、「仕事が忙しくて時間がない」です
  • 親の関わりが成績を上げるかどうかは、研究によって見方が分かれます
  • 私の考えは、子どもに勉強を求めるなら、まず自分が学ぶ姿を見せることです

大人はどれくらい学んでいるか。数え方で答えが変わる

大人が学んでいる割合は、調査によって数字がかなり違います。何を「学習」と数えるかが違うからです。

この1年に学習した大人の割合
定義が違う2つの国の調査
39.6%
社会生活基本調査(2021年)
10歳以上が対象。職場の研修や、学生の授業・予習・復習は含まない
58.4%
生涯学習に関する世論調査(2018年)
18歳以上が対象。インターネットでの学習や、職場の教育・研修なども含む

世論調査は2022年にも行われていますが、この記事では数字を原典で確認できた2018年の結果を使っています。

2018年の調査で、この1年に学習しなかった人に理由を聞いた結果が次のとおりです(複数回答)。

学習しなかった理由(上位4つ)
この1年に学習したことがない人への質問。2018年
この章の出典 総務省「令和3年社会生活基本調査」/内閣府「生涯学習に関する世論調査」(2018年7月調査)

子育て期は、自分の時間がいちばん削られる時期

小さな子どもがいる家庭では、時間の使い方が大きく変わります。6歳未満の子どもがいる男性が家事・育児に使う時間は、2016年の1日1時間23分から、2021年には1時間54分に増えました。それでも、国の目標の2時間30分には届いていません。

6歳未満の子どもがいる男性の、家事・育児の時間(1日)
国の目標との比較

仕事と家事・育児に時間を取られるなかで、自分のための学びは後回しになりやすい。「時間がない」は、子育て期の親にとって実感に近い理由だと思います。

この章の出典 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 結果の概要」(2023年6月)

大人の粘る姿を見た子どもは、自分も粘る

では、親が学ぶ姿は子どもに何か影響するのか。直接それを確かめた実験があります。

米国の研究チームは、1歳3か月ごろの子ども262人を3つのグループに分けました。大人が方法を変えながら何度も挑戦して目標を達成する様子を見るグループ、大人があっさり達成する様子を見るグループ、何も見ないグループです。そのあと、どの子にも難しいおもちゃを渡しました。

実験の流れ
1歳3か月ごろの子ども262人。最初の研究と、事前に計画を登録した追試を含む

研究チームは、大人の手本が子どもの粘り強さに影響を与え、子どもはそれを初めての課題にも広げられると結論づけています。子どもに語りかけるような合図があるかどうかで、効果の出方が変わったことも報告されています。

同じ研究者たちは、4〜5歳の子どもでも、大人の行動や結果、言葉が粘り強さにどう影響するかを調べています。さらに2021年には、大人が代わりにやってしまうと、子どもは粘らなくなるという研究も出しています。

こうした研究から、研究者たちは親に向けて、失敗を隠さず、苦労しながら成功するまでを子どもに見せること、そのあいだに努力して諦めないことの価値を言葉にすることを勧めています。

ただし、実験で測ったのは、おもちゃを動かそうとしてボタンを押した回数です。乳幼児の短い課題で確かめられたことで、学校の勉強や長い期間にまで広がるかは、まだ分かっていません。

この章の出典 Leonard, Lee & Schulz(2017)Science/Leonard, Garcia & Schulz(2020)Child Development/Leonard ほか(2021)Child Development/Leonard, Duckworth, Schulz & Mackey(2021)Trends in Cognitive Sciences

学ぶ親の子どもは、本を読む時間が長い

日本のデータにも、近い結果があります。東大とベネッセの研究グループの2022年のデータでは、自分の能力を高めるための勉強をしている保護者の子どもは、学校がある日の読書時間が1日平均16.6分でした。していない保護者の子どもは13.9分です。

保護者の学びと、子どもの読書時間(1日平均)
小学1年生〜高校3年生。2022年
16.6分自分の能力を高める勉強を
している保護者の子
13.9分していない
保護者の子

ただし、これは関連です。前回の記事でも書いたとおり、家庭の環境と子どもの読書の関係には、家庭の経済状況や遺伝など、ほかの要因が混ざっている可能性があります。

この章の出典 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの読書行動の実態」(2023年10月、親子調査2022年のデータ)

「叱るよりほめる」。ただし、成績への効果は見方が分かれる

ベネッセが同じ親子を年少から小学2年生まで追いかけた調査(母親479名)では、小1のときに「叱るよりほめる」ことを心がけていた親ほど、小2で子どもが自分から進んで勉強する傾向がありました。

「大人に言われなくても自分から進んで勉強する」子の割合は、親の関わり方で次のように違いました。

「言われなくても自分から勉強する」小2の割合
小1のときの親の関わり方別

一方で、親の関わりに疑問を投げかける研究もあります。米国の社会学者が63種類の関わり方を調べた本では、多くの関わりは子どもの成績を上げず、マイナスに出ることもあったとされました。

ただ、この本には強い批判があります。成績に困っている子ほど親が手伝うため、手伝いが成績を下げたように見えてしまう、つまり相関を因果と取り違えている、という指摘です。

また、東大とベネッセの追跡データを使った別の分析では、先に学習意欲があっても、それがその後の成績を左右するとは言えませんでした。むしろ、成績がその後の意欲に影響する向きのほうが大きかったとされています。

ベネッセの調査が見ていたのは「自分から勉強する態度」で、米国の研究が見ていたのは「成績」です。態度とは関連があっても、成績まで上がるとは言い切れない、というのが今のところの整理です。

この章の出典 ベネッセ教育総合研究所「幼児期から小学生の家庭教育調査・縦断調査」(2017年5月発表)/Robinson & Harris(2014)The Broken Compass/Jay P. Greene による同書の書評(Education Next)/木村治生(2021)「望ましい学習意欲や学習方略は学業成績を高めるのか」(東京大学社会科学研究所 SSJDA Research Paper Series No.77)
私の場合

一度も、本気で勉強したことがなかった

ここからは私の話です

30代後半になるまで、私は診療放射線技師の仕事をなんとなく続け、家庭教師はお小遣い稼ぎのつもりでやっていました。

その頃に家族が増えました。お金もかかるし、自分の自由な時間は減ります。それは幸せなことでもありますが、焦りも出てきました。何もしなくても生活に困るわけではありません。家族と過ごす時間を増やす、という選択肢もありました。

転機は、生徒の保護者との会話でした。いろいろな職業の保護者と話すうちに、家庭ごとの教育のスタイルが見えてきます。そのなかで、親にしてもらったことをそのまま子どもにさせるのではなく、親にしてもらったことで今の自分があるのだ、と感じるようになりました。

せっかくいろいろしてもらったのに、「副業で家庭教師をしています」だけではもったいない。そう思ったとき、自分がこれまで一度も本気で勉強したことがなかったことに気づきました。

何より、子どもや生徒に勉強を求める以上、自分が頑張っていなければ示しがつかない、と思ったのです。

家庭教師の仕事は、勉強を教えるだけではありません。学習の計画を立てること、生徒の内面を見ること、保護者と話すこと。教える以外に学ぶことや気を配ることが、たくさんあります。知っていることを分かりやすく教えるだけでなく、それ以上のことをしようとすると、学びが必要でした。

そこから勉強を始めました。本業が17時に終わり、18時半から22時までは週5日で授業。PMPの勉強は、そこから毎日続けました。休みの日も、空いた時間はすべて勉強に充てました。家族の理解があったことも大きかったです。

自分の時間がなくなったからこそ、自分の時間の大切さが分かったのだと思います。

家では、よほどのことがない限り「勉強しなさい」と言わなくなりました。その代わりに、「これから授業に行ってくる。今日はこういう生徒に、こういうことを教える」と話すようにしています。

親にしてもらったことを、どう受け止めたか やらされていた勉強が、役に立ったと気づいたのは30代後半でした
照らし合わせると

データと、私の経験を照らし合わせる

一致すること

  • 家族が増えて自分の時間が減った、という実感は、学ばない理由の上位が「時間がない」であることと重なります
  • 言葉より背中で見せる、という考えは、大人の粘る姿を見た子どもが自分も粘った実験と、方向が同じです
  • 今日教えることを話す、という関わり方は、努力の価値を言葉にするという研究者の提案に近いものです
  • 「勉強しなさい」と言わない、という判断は、叱るよりほめる親の子ほど自分から勉強する、という追跡調査と方向が合います

ずれること

  • 実験で確かめられたのは、乳幼児の短い課題での粘り強さです。学校の勉強にまで広がるかは分かっていません
  • 親の関わりが成績を上げるかについては、上げないとする研究と、その研究への批判があり、見方が分かれています
  • 先に意欲があれば成績が上がる、とは言えないという分析があります。背中を見て意欲が上がっても、それだけで成績が上がるとは限りません

確かめられないこと

  • 学ぶ保護者の子ほど本を読む、というデータが、親の姿の影響なのか、家庭のほかの条件によるものなのかは、切り分けられていません
  • 2022年の世論調査の数字は、原典で確認できていません
  • 親が資格の勉強をする姿を見た子どもが、その後どう変わるかを長く追った研究は、見つけられませんでした
私の考え

それでも私は、まず自分が学ぶ姿を見せると決めました

子どもに勉強を求めるなら、まず自分が頑張っている姿を見せる。言葉で何かを言うより、背中で見せる。私はそう考えています。

成績まで上がるかは、研究でも分かれています。それでも、大人が工夫しながら挑戦する姿を見た子どもが、自分も粘るようになったという実験は、私が家で感じていることと重なります。

もちろん、どう時間を使うかは家庭ごとに違います。家族と過ごす時間を増やすことも、立派な選択です。私の場合は、自分の時間が減ったからこそ、その時間を学びに使うと決めました。

その積み重ねで、生徒に勉強を教えるだけでなく、学習の計画を立て、内面を見て、保護者と話す仕事ができるようになったと思っています。

で、どうしますか

今週、子どもの前で「自分が学んでいること」を一つ話してみる

資格の勉強でなくてもかまいません。仕事で覚えたこと、料理で試していること、趣味で練習していること。大人が何かに挑戦している様子を、3つの文で話してみてください。

研究者の提案に沿うなら、うまくいかなかった日も、それを隠さずに話すのがよさそうです。

「勉強しなさい」と言う回数を減らすかどうか、何を話すかを決めるのは、それぞれのご家庭です。まずは一度、自分の学びを言葉にしてみるところからで十分だと思っています。

この記事で分かったこと
  • 大人が何度も挑戦する姿を見た子どもは、自分も多く挑戦した。ただし、乳幼児の短い課題での実験です。
  • 学ばなかった大人の理由で最も多いのは「仕事が忙しくて時間がない」。大人の学習率は、数え方で大きく変わります。
  • 学ぶ保護者の子は、本を読む時間が長い。ただし関連で、ほかの要因が混ざっている可能性があります。
  • 「叱るよりほめる」は自分から勉強する態度と関連。成績への効果は、研究で見方が分かれます。
  • 私の考えは、まず自分が学ぶ姿を見せること。今週、自分の学びを3つの文で話すところからです。

小学5年生から先のこと

小学5年生から高校3年生までは、ラーニングPM で見ています。ここで書いているのは、その手前の時間の話です。中学3年生まで見てきたからこそ、もっと前に何があったのかが気になっています。

この記事で参照したもの
  • 総務省「令和3年社会生活基本調査」(生活行動に関する結果)
  • 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 結果の概要」(2023年6月)
  • 内閣府「生涯学習に関する世論調査」(2018年7月調査)
  • 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの読書行動の実態 ―調査結果からわかること―」(2023年10月。「子どもの生活と学びに関する親子調査」2022年のデータ)
  • ベネッセ教育総合研究所「幼児期から小学生の家庭教育調査・縦断調査」(2017年5月発表)
  • Leonard, J. A., Lee, Y., & Schulz, L. E. (2017). Infants make more attempts to achieve a goal when they see adults persist. Science, 357(6357), 1290–1294
  • Leonard, J. A., Garcia, A., & Schulz, L. E. (2020). How adults’ actions, outcomes, and testimony affect preschoolers’ persistence. Child Development
  • Leonard, J. A., et al. (2021). Children persist less when adults take over. Child Development
  • Leonard, J. A., Duckworth, A. L., Schulz, L. E., & Mackey, A. P. (2021). Leveraging cognitive science to foster children’s persistence. Trends in Cognitive Sciences
  • Robinson, K., & Harris, A. L. (2014). The Broken Compass: Parental Involvement with Children’s Education. Harvard University Press
  • Greene, J. P. “Wrong Diagnosis on Homework Help from Parents”(Education Next、The Broken Compass の書評)
  • 木村治生(2021)「望ましい学習意欲や学習方略は学業成績を高めるのか ―交差遅延効果モデルを用いた検討―」東京大学社会科学研究所 SSJDA Research Paper Series No.77
  • 「私の場合」「私の考え」は、私個人の経験によるものです
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