英語は小3から始まりました。
では、早く始めた子は強くなったのか。
2020年度から、小学校の英語が前倒しになりました。その最初の世代が中学3年生になったときの全国調査を読みました。
年中から小学校4年生くらいのお子さんがいるご家庭に向けて書いています。
- 2020年度から、英語は小学3年生で始まり、小学5年生からは教科になりました。私たちの世代より2年早いスタートです
- その最初の世代が中学3年生になったときの全国調査では、3人に1人が「英語を聞いて少し分かる」以下の水準でした
- ただし、その原因が前倒しにあるのかどうかは分かりません。この世代はコロナと重なっています
- 調査から見えたのは別のことです。効いていたのは開始時期ではなく、「授業がよく分かること」と「英語が好きなこと」でした
まず、何がどう変わったか
2020年度から、小学校の英語はこうなりました。
| 学年 | 内容 |
|---|---|
| 小1・小2 | なし |
| 小3・小4 | 「外国語活動」。週1回・年35時間。成績はつかない |
| 小5・小6 | 「外国語」という教科。成績がつく |
| 中1〜 | これまでどおり |
私が中学生だったころ、英語は中学1年生からでした。今は小学3年生から触れて、小学5年生から教科になります。2年の前倒しです。
プログラミングも同じ2020年度に必修化されましたが、こちらは独立した教科ではありません。算数や理科の中で扱う形です。専用の時間はありません。
前倒し後の最初の世代は、どうなったか
2023年(令和5年)の全国学力・学習状況調査で、中学3年生を対象に英語の調査が行われました。この学年は、小学6年生のときに教科としての英語を1年間受け、中学1年・2年を新しい指導要領で過ごした、制度変更後の最初の世代です。
調査は90万人以上が受けています。その結果を、横浜国立大学が詳しく分析しました。
3人に1人が「聞いて少し分かる」以下
分析では、生徒を英語力で5つの層に分け、それぞれ「英語で何ができるか」を対応させています。
中学3年生の3人に1人が、「聞いた内容が少し分かる」か、それ以下の水準にいます。
書くことと話すことが、特に厳しい
技能別に見ると、差がはっきりします。
聞いたり読んだりはできる。でも、自分から書いたり話したりができない。そういう形になっています。
「書くこと」で0点だった生徒が約5割、「話すこと」で0点だった生徒が約6割です。話すことの「発表」にいたっては、95%の生徒が0点でした。
つまずいているのは、文法です
分析では、生徒が苦手とする問題も特定されています。文法の正確な運用能力を評価する問題では、過去形の文をつくる問題を多くの生徒が苦手としていました。2人称単数の過去形の疑問文(「あなたは〜しましたか」)の正答率は21.8%です。
報告書は、文構造の習得は書くことや話すことの正確な発信において不可欠であり、長期的な言語活動の繰り返しの中で基礎基本を定着していくことが重要だと述べています。
https://www.mext.go.jp/content/20240517-mxt_chousa02-000034685_011.pdf
ただし、原因は分かりません
この結果が前倒しのせいなのかどうかは、このデータからは分かりません。報告書自身が注意を促しています。この世代が小学6年生だった令和2年度は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった年でした。中学1年生だった令和3年度は、オンライン学習と対面学習が併用されていた時期です。英語の授業で「話すこと」の指導が難しかった時期と、そのまま重なっています。
前倒しの影響と、コロナの影響が、混ざっています。切り分けることはできません。
調査から見えたのは、別のことでした
では、何が英語力に効いていたのか。分析はそこも調べています。
効いていたのは、開始時期ではありませんでした
英語力を予測する要因を調べた結果、効果が高かったのは次のものでした。
- 授業がよく分かること
- 英語の勉強が好きであること
- 日常的に英語を使う機会があること
- 家庭でICT機器を使った英語学習をしていること
そして報告書は、これらの効果は家庭の社会経済的な背景の影響を上回ると明記しています。
家庭の経済状況で決まるわけでもありませんでした
分析では、家庭の経済的な背景が低い水準の学校のうち、英語の成績が高い学校を抽出して、実際に6校を訪問しています。そこで見つかったのは、こういう学校でした。
- 1年生のときから、基礎の定着のための練習を毎回続けている
- 言語活動をやって終わりにせず、文法のルールを明示的に説明し、練習を繰り返している
- 生徒が「英語の授業はよく分かる」「英語が好き」と答える割合が高い
報告書には、訪問した6校のうち2校には、最も英語力の低い層の生徒が1人もいなかったと書かれています。条件が厳しくても、そうならない学校が実在しています。
── 報告書より
英語に触れさせるだけ、楽しませるだけでは足りない、ということです。
手放すものを知って選んだ、あるご家庭の話
ここからは、私が実際に見たことです。
中学受験のために、1年間学校を休んで、その勉強だけに集中したご家庭がありました。その間、英語には一切触れていません。
結果は出ました。狙った学校に届いています。
そして中学校に入ったとき、英語は本当にゼロからのスタートになりました。まわりの子が小学校で3年間触れてきたものが、その子には丸ごとありません。
ご家庭は、それを承知のうえで選んでいました。
1年をこれに使うと決めて、他を手放した。手放したものの中に英語が入っていた。後から「こんなはずでは」とはなっていません。
私がこの話を書くのは、中学受験のために学校を休むことを勧めたいからでも、やめたほうがいいと言いたいからでもありません。手放すものを知ったうえで選んだ、という部分です。
見切り発車になっていないか
英語が小学3年生から始まったと聞けば、早く始めたほうがいいと考えるのは自然です。
ただ、何かを始めれば、その時間は他には使えません。英語に週1回通えば、その曜日の放課後は埋まります。教材を毎日やれば、その時間は他のことに使えません。
問題は、始めることではないと思っています。何を手放すかを知らないまま始めてしまうことです。
さきほどのご家庭は、手放すものを分かったうえで決めていました。だから結果が出ても出なくても、納得できる形になっています。
反対に、「みんなやっているから」「小学校でも始まったから」で始めた場合、何を手放したのかが後から分かりません。うまくいけばいいのですが、うまくいかなかったときに、何が原因だったのかも分からない。
早く始めるべきかどうかは、私には分かりません
ただ、今回の調査から言えることが1つあります。
効いていたのは、いつ始めたかではありませんでした。授業がよく分かること、英語が好きであること。その2つの効果が、家庭の経済状況の影響より大きかった。
だとすれば、年中や小学校低学年の段階で考えることは、「早く始めるかどうか」ではないのかもしれません。始めたものを、その子が「分かる」と思えているか。「好き」と言えているか。そちらのほうです。
そして、始めるときに一度だけ、何を手放すことになるのかを考えてみる。それだけで、あとになって後悔する形は減るのではないかと思っています。
- 英語は2020年度から小3で始まり、小5で教科になった。2年の前倒しです。
- 前倒し後の最初の世代で、3人に1人が「聞いて少し分かる」以下。書くこと・話すことが特に厳しい。
- ただし、原因は分からない。この世代はコロナと重なっていて、切り分けられません。
- 効いていたのは「授業が分かること」と「英語が好きなこと」。その効果は、家庭の経済状況を上回っていました。
小学5年生から先のこと
小学5年生から高校3年生までは、ラーニングPM で見ています。ここで書いているのは、その手前の時間の話です。中学3年生まで見てきたからこそ、もっと前に何があったのかが気になっています。
- 文部科学省「令和5年度『学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究』令和5年度全国学力・学習状況調査の英語の結果を活用した専門的な分析」(委託先:横浜国立大学/令和6年3月29日公表)
- 対象は令和5年4月に調査を受けた中学3年生。「聞く・読む・書く」は923,981人、「話すこと」は41,966人の結果から推定されたものです
- 学習指導要領の改訂内容は、平成29年3月告示・令和2年度全面実施(小学校)、令和3年度全面実施(中学校)によります
- 「あるご家庭の話」は、ご家庭の許可をいただいたうえで、学年や時期を伏せて掲載しています
