毎回の要約を、やめました。
手を貸す回数を、わざと減らしたからです。
社会の歴史の授業です。流れを丁寧に組んで、最初と最後に要約して渡していました。それでも記述が取れない。そこで、手を貸す回数を意図的に減らしました。保護者の方にも、すぐに気づかれました。
インプット
つくる変換術
伴走 2 / 2
自信
前回の記事の終わりに、次は「生徒の手が止まりかけた瞬間に、問いかけの難しさをその場で下げていく技法」について書く、と予告しました。
手を貸す量を、生徒の様子に合わせて上げ下げする。今回の技法の半分は、たしかにそれです。ただ、書こうとして振り返ると、私がいちばん迷ってきたのは下げる側ではなく、手を引く側でした。今回は、そちらから書きます。
丁寧に組んで、丁寧に渡していた
その生徒とは、社会の歴史を一緒にやっていました。中学2年の終わりごろのことです。
当時の授業は、こういう形でした。冒頭で「今日はここをやるよ」と要点を話す。時代の流れは私が組み立てて、出来事と出来事をつなぐエピソードも、こちらで用意して渡す。途中は質問で誘導して、終わりにもう一度要約する。
丁寧な授業だったと思います。生徒も、その場ではうなずいていました。ところが、定期テストの記述問題は、ほぼ0点のままでした。
流れを全部こちらが組むから、「なぜ?」が生まれない
いろいろ試しても定着しない。そこで、ひとつの仮説を立てました。
時代の流れも、エピソードも、授業に来た時点で出来上がっている。だから生徒の側に「なぜこうなったんだろう」と思う場面がない。そして、次に何をするかを私が言うのを待つ、指示待ちの状態になりつつありました。
このときはまだ、研究で何が言われているかを調べていませんでした。あくまで、授業を見ていての仮説です。
要約をやめて、今の自分をしゃべらせた
まず、冒頭と終わりの要約をやめました。代わりに、授業の最初にこう聞くようにしました。
予習はさせていません。ただ、学校ではすでに習っている範囲でした。授業を始める前に、今の自分がどこまで分かっているかを、本人に確かめさせるためです。
そのうえで、本人が考えていることを先にしゃべらせました。私からの質問での誘導は意図的に減らし、ヒントの数も減らしました。止まっても、すぐには助けずに、あえて一緒に立ち止まりました。
- 講師「今日はここをやるよ」と要点を話す
- 講師時代の流れとエピソードを組んで渡す
- 講師質問で答えのほうへ誘導する
- 講師最後にもう一度要約する
- 講師「前回と比べて、どんな違いがある?」とだけ聞く
- 生徒今の自分の考えを、先にしゃべる
- 生徒どういう流れで説明するかを、自分で組む
- 待つ止まっても、誘導とヒントは減らしたまま
私からの手助けが減ったので、生徒は自分で考えなければならなくなりました。次はどういう流れで、相手に説明すればいいか。以前の授業では、そこを考える必要がありませんでした。
「あれ? 介入の回数、減りましたよね」
変えてすぐに、保護者の方から声をかけられました。クレームではありません。ただ、授業で私が手を貸す回数が減ったことに、はっきり気づかれていました。
私は事情を話しました。これは仮説ですが、と前置きしたうえで、流れをすべてこちらで組んでいるので、本人が「なぜ」と考える場面がないこと。指示を待つ状態になりつつあること。自分で考えさせるために、意図的に回数を減らし、ヒントを減らし、あえて立ち止まっていること。
話を聞いて、納得していただけました。
手を貸している様子は、外から見えます。考えさせている時間は、外からは見えにくい。だから手を引くときは、何のために引いているのかを、先に言葉にしておく必要があると感じました。
記述は、30点中15点以上取れるようになった
このやり方で、中学3年の夏休みごろまで、半年ほど続けました。定期テストの記述問題の点数は、こう変わりました。
1マス=1点。半年後は15点を下回らなくなった、という意味で15マスを塗っています。
まだ粗削りです。要点をつかみきれず、△になった答案もありました。それでも、ほぼ書けなかった状態から、自分で流れを組んで書く答案が出てくるようになりました。
足場は、外すところまでが足場です
あとになって調べると、この迷いは研究でも正面から扱われていました。
学習者が一人ではできない課題を、大人が一時的に支えることを「足場かけ(スキャフォールディング)」と呼びます。その研究をまとめたレビューは、足場かけの中心となる特徴を3つに整理しています。
「手を貸すこと」は、3つのうちの1つにすぎません。残りの2つは、手を引いていく話です。
手厚さが、逆に働くことがある
教育心理学には「熟達化逆転効果」と呼ばれる現象があります。慣れていない学習者にはよく効く手厚い教え方が、経験を積んだ学習者には効かなくなり、かえって悪い影響が出ることがある、というものです。多くの研究で確かめられていて、学習者の知識が増えるにつれて教え方を変える必要がある、とされています。
手を貸すか、控えるかは、「アシスタンス・ジレンマ」とも呼ばれています。手を貸すと、生徒が自分では思いつかない情報を渡せる。その代わり、取り組みが浅くなったり、記憶に残りにくくなったりする。控えると自分で考えさせられる。その代わり、行き詰まって時間を無駄にさせるおそれがある。どちらにも、得るものと失うものがあります。
12〜15歳の生徒768人を対象にした、社会科の教室での実験もあります。手を貸す頻度が高い状況では、生徒に細かく合わせた支援より、あまり合わせない支援のほうが、成績と取り組みの両方で良い結果でした。研究者は、足場かけは無条件に効くわけではない、とまとめています。
私が授業で感じていた「お膳立てしすぎると考えなくなる」は、ここで言われている「取り組みが浅くなる」に近いと思います。ただ、「考えなくなる」ことそのものを測った研究を、私はまだ見つけられていません。ここは私の実感として書いておきます。
手を引いていいのは、手がかりが本人の中にあるときだけ
ここで大事な注意があります。手を離せば伸びる、という話ではありません。
前提になる知識が少ない学習者には、しっかりした指導のほうが効きます。その優位が薄れはじめるのは、学習者が自分の中に手がかりを持てるくらいの知識を身につけてから、とされています。
今回うまくいったのは、学校で一度習った範囲だったからだと考えています。「前回と今回で何が違う?」と聞かれても、答えるための材料が、生徒の中にゼロではありませんでした。何も持っていない単元で同じことをしたら、ただ迷わせるだけだったはずです。
最後の一つは、授業の外でも同じように考えています。家で一人で取り組む仕組みも、「考えるのは本人、確かめるのはこちら」という形で組んでいます。
手厚くすることと、伸ばすことは、同じではなかった
手を貸すほど、授業は丁寧に見えます。生徒もその場ではうなずきます。ただ、それがテストの答案に出てくるとは限りませんでした。
この半年でやったのは、手を貸す量を増やすことではなく、減らしても大丈夫なところを見極めて、減らすことでした。
- 冒頭と終わりの要約をやめる。流れを先に渡すと、「なぜ」と思う場面がなくなるからです。
- 最初に「前回と何が違う?」と聞く。授業の前に、今の自分の立ち位置を本人に確かめさせます。
- 誘導の質問とヒントを減らし、止まっても待つ。次にどう説明するかを、本人に組ませます。
- 手を引く理由を、保護者に先に伝える。考えさせている時間は、外からは見えにくいからです。
- 手を引くのは、手がかりが本人の中にあるときだけ。確かめる役は、こちらが持ち続けます。
次回からは柱④「揺るぎない自信」に入ります。
手厚い授業を受けているのに、書けない理由があります
どれだけ手を貸すかより、どこで手を引けるかを見ます。まずは無料相談で、お子さんが今どこまで自分で考えられているかを、一緒に確認しませんか。
- van de Pol, J., Volman, M., & Beishuizen, J. (2010). Scaffolding in teacher–student interaction: A decade of research. Educational Psychology Review, 22, 271–296.
- Kalyuga, S., Ayres, P., Chandler, P., & Sweller, J. (2003). The expertise reversal effect. Educational Psychologist, 38(1), 23–31.
- Koedinger, K. R., & Aleven, V. (2007). Exploring the assistance dilemma in experiments with Cognitive Tutors. Educational Psychology Review, 19(3), 239–264.
- van de Pol, J., Volman, M., Oort, F., & Beishuizen, J. (2015). The effects of scaffolding in the classroom: support contingency and student independent working time in relation to student achievement, task effort and appreciation of support. Instructional Science, 43(5), 615–641.
- Kirschner, P. A., Sweller, J., & Clark, R. E. (2006). Why minimal guidance during instruction does not work. Educational Psychologist, 41(2), 75–86.
- 授業の場面は、掲載について保護者の了承を得たうえで、個人が特定されないように書いています。点数の変化は、この生徒の定期テストの結果です
