授業のあと届くレポートの、
判定基準を全部公開します。
ある保護者の方から、以前こう言われました。「書いてあることの根拠が乏しくて、何も伝わってこない」。もっともな指摘でした。そこでレポートを一から作り直し、判定の基準そのものを決め直しました。この記事は、その基準の全文と、実際に届くものの中身です。物語ではなく、仕様書として読んでいただければと思います。
31秒・音は出ません
授業が終わると、ご家庭には2種類の資料が届きます。生徒本人が使う復習用の資料と、保護者の方が読む報告用の資料です。中身は同じ授業から作られていますが、書き方も、使う言葉も、目的も違います。
以前のものは、出来がよくありませんでした。「よく理解できていました」「あと少しです」といった言葉が並ぶだけで、なぜそう言えるのかが書かれていなかったのです。講師が口頭で補って初めて成立する資料でした。それは資料とは呼べません。
指摘を受けて考え直したとき、問題は文章の書き方ではないと分かりました。そもそも、何を測っているのかが定義されていなかった。だから根拠が書けなかったのです。ここから直すことにしました。
測っているのは、理解度ではありません
最初に、一番誤解されやすいところをはっきりさせておきます。このレポートの判定は、お子さんの理解度を採点したものではありません。測っているのは、こちらです。
理解度は、外から見ることができません。「分かった?」と聞けば、たいていの子は「分かった」と答えます。それは嘘をついているのではなく、本人にも分かっていないからです。分かったつもりと分かったの区別は、本人が一番つきにくい。
一方で、講師が何を言ったかは、記録に残る事実です。促しただけなのか、着眼点を渡したのか、答えまで言ってしまったのか。ここを見て判定すれば、印象や体調に左右されません。主観を混ぜないために、あえて理解度を測るのをやめました。
言い換えると。判定が重い項目は「できていない項目」ではなく、まだ講師の手が要っている項目です。手が要らなくなった状態を自力と呼び、そこへ近づいていく過程を記録しています。
5段階を、3段階に減らしました
この記事を最初に公開したとき、判定は5段階でした。A(手を貸さずに自分で説明し切った)、B1・B2・B3(手の貸し方の重さ)、C(その項目の手前で止まっていた)です。
そのうちAとCをやめました。理由は1つです。
Cから説明します。Cは「こちらが渡したものが、前に習っているはずの内容だったかどうか」で決めていました。2次方程式の授業中に、中1で習う移項の原理を説明し直したなら、その子に足りないのは2次方程式ではない──という判断です。
考え方としては間違っていないと思います。ですが、その日の記録の中に、それを判断する材料がありません。移項をいつ習ったのか、習ったうえで忘れているのか、そもそも通っていないのか。その日の90分の記録には書かれていないのです。同じ授業を後から見返しても、答えられません。
実際、運用してみると同じ回でもCが多く出る日と1件も出ない日があり、その差が授業の中身では説明できませんでした。戻る先を決める重い判定が、そこまで確かでないものの上に乗っていた。これは残せません。
Aも同じ構造でした。Aの条件は「手を貸していない」ことに加えて、「理由まで自分の言葉で、迷いなく説明し切った」ことでした。前半は講師の発言を見れば分かります。問題は後半です。
生徒の発言は、短いのです。「オーストラリア」「5-xか」「あ、そうですね」。一方で講師は説明をするので、一度に何倍も話します。録音を文字にすると、短い発言ほど、こぼれます。言ったのに残っていない、ということが起きる。そこに「迷いがあったか」まで乗せていました。
つまり、判定の一番大事なところ(Aかどうか)を、一番拾いにくいところに乗せていたということです。
数が減ると粗くなる、と思われるかもしれません。逆でした。5段階のうち2つは、確かでない材料の上に立っていたからです。それを外した結果、残った3段階はすべて「講師が何をしたか」だけで決まります。講師の発言は、記録の中で一番はっきり残るものです。
実際の違いとしては、同じ授業を後から見返したときに、同じ段階が付くようになりました。以前は「前に習ったはずか」の見立てが揺れると、段階まで変わっていました。今は揺れる材料が判定に入っていません。
そして、AとCが見ていたものを捨てたわけではありません。置き場所を変えました。Aが見ていた「自分で説明できたか」は、その日ではなく日を空けてもう一度確かめる形に移しています(仕様4)。Cが見ていた「前の単元に戻る必要があるか」は、判定ではなく記録として残し、講師が面談で使う材料にしています(仕様5)。
3つの目盛りと、判定の手順
手の貸し方を、B1・B2・B3の3段階で刻んでいます。3つとも「講師が何をしたか」だけで書かれていて、生徒の様子や印象は入りません。
今の B1 が言っているのは「こちらの手が入らなかった」、それだけです。答えに届いたかどうかは、この段階には含まれていません。どこまで行けたかは、各項目に添えている一文と、お子さんの発言のほうに書いてあります。
判定には手順があります。以前は4段階の分岐でしたが、3つになりました。
この3つに、生徒の発言は一切入っていません。意図的にそうしています。仕様2に書いたとおり、生徒の発言は短く、録音からこぼれることがあるからです。こぼれる可能性のあるものを、判定の土台にしない。それが今回いちばん大きく変えた考え方です。
その日には、まだ完了にしません
旧版では、Aが付いた項目をその場で完了として扱っていました。これをやめました。今は、その日の授業で完了になる項目は1つもありません。
では、いつ完了になるのか。
ご本人の言葉で説明できたときだけです。
授業で扱った項目には、その場で確認用の問題と合格の基準を作ります。それが次の回、あるいはその次の回に出てきます。そこで説明できたら完了。できなければ、残ったまま次に回ります。
理由は、旧版でAを厳しく取っていたのと同じです。
その場で言えたことと、日を置いても言えることは違います。用語や地名は特にそうで、一度言えたからといって2週間後に言えるとは限りません。その場でできた、を完了にしてしまうと、忘れたことが記録から消えます。消えたものは確認されません。
ですので、レポートに【できた】と出るのは、日を空けた確認を通った項目だけです。その日の一覧には出てきません。
この変更で、見ていただく数字も変わりました。以前の「A率」「C率」に当たるものはありません。
右側の数字が、以前のA率に代わるものです。件数は少なく出ます。その場でできたものを数えていないので、当然そうなります。ですがこの2件は、日を置いても説明できた2件です。意味が違います。
左側の「全体の位置」は、回を重ねたときの動きで見てください。同じ単元を扱った回で、この数字が下がってきていれば、こちらの手が減っているということです。1回の数字には意味がありません。
段階の裏で、もっと細かく記録しています
紙に出る段階は3つですが、その3つを決めるまでに見ているものは、もっと細かくあります。段階には使わず、記録としてだけ残しているものも含めて、何を見ているかを書いておきます。
なぜ判定に使わないものまで残すのか。判定に入れると、確かでないものが段階に混ざるからです。それが5段階のときに起きたことでした。かといって捨ててしまうと、二度と戻ってきません。
ですので判定と記録を分けました。段階は確かなものだけで決め、確かでないものは記録として残して、人が読む。面談でお話しするのは、多くがこちら側の内容です。「同じB2でも、この項目は着眼点だけで進みました」「この項目は4回聞いてようやくでした」。段階だけでは出てこない話が、ここにあります。
これらをどう集めて資料の形にしているかは、この記事では書いていません(後述)。書いているのは、何を見ているかまでです。
確定しているところと、まだ調整しているところ
ここまで基準を書いてきましたが、すべてが同じ確からしさで固まっているわけではありません。どこが固まっていて、どこをまだ調整しているのか、分けて書いておきます。仕様書として出している以上、ここを曖昧にすると読む意味がなくなるからです。
- 3段階の定義と、判定の手順。ここまでに書いたとおりに定めています。今後また基準を見直すことがあれば、必ずこの記事を書き直し、何を変えたかを冒頭に残します。今回がその1回目です。
- 付けた判定は、あとから書き換えません。その回に付いた段階はその回のものとして残ります。5段階で付けた過去の記録も、そのまま残してあります。あとで見栄えよく直す、ということはしていません。
- 完了とするのは、日を空けた確認を通った項目だけ。その日の判定では完了にしません。
- 授業のたびに、全項目へ講師自身が判定を付けること。抜き取りではありません。その回に扱った項目を一つも飛ばさずに見ます(仕様7)。
- 月次レポートと面談資料で、2つの判定を並べて出すこと。違いがあれば、そのまま載せます。
3段階に減らしたことで段階そのものの揺れは小さくなりましたが、「ゼロになった」とは申し上げられません。
だからこそ、次の仕様7があります。数字だけが独り歩きしないように、人の目を必ず一つ通す形にしてあります。そしてお願いがあります。面談のときでも、普段のご連絡でも構いません。お子さんのご様子と、レポートの数字が噛み合わないと感じられたときは、遠慮なくお知らせください。こちらからも、気づいた時点でお伝えします。記録は授業を見直すための道具であって、それ自体が結論ではありません。
同じ項目を、二通りの目で見ています
ここまでの判定は、授業の記録――講師が何を言い、お子さんが何を言ったか――から付けたものです。記録に残った言葉を見て決めます。
その同じ項目を、授業をした講師自身も、もう一度見ています。一部を抜き取ってではありません。その回に扱った項目を全部です。記録を見返さずに、授業を思い出して付けます。10年以上・100名を超える個別指導のなかで、「この答え方はまだ自分のものになっていない」と判断してきた、その経験則のほうです。
二通りで見る理由は、記録には残らないものがあるからです。答えを言う前の間、教材のどこを見ていたか、言い切ったのか言わされたのか。隣で授業をしていた講師には見えていて、文字にした記録には残りません。
旧版では、講師の側は A・B・C の3段階で付けていました。記録の側は5段階なので、比べるために B1〜B3 をまとめて「B」に丸めていたのです。そのため「記録はB3、講師はB2」のような差が、どちらも「B」として同じ扱いになり、見えませんでした。
今はどちらも B1・B2・B3 です。丸めずにそのまま並べられます。同じ段階なのか、1つ違うのか、2つ違うのかまで分かるようになりました。
授業の当日にお渡しする資料は、記録からの判定だけです。講師の判定はそのあとに付けるためです。月次レポートと面談資料で、2つを並べます。
2つが同じ段階なら、その判定は確かです。違っていれば、違っていたという事実をそのまま載せます。どちらかが間違っているという意味ではありません。記録に残った言葉と、隣で見ていた講師の見立てが違った、ということです。
上のL03なら、記録の上では問いかけだけに見えたが、講師は「あのとき一言添えた」と覚えている、と読めます。L09なら逆で、記録には答えまで話したと残っているが、講師の感覚では道すじを示したところで本人が先に言った、というような差です。面談では、こういう項目からお話しします。
これは、判定を1つに絞ることをやめた設計です。言い回しや解釈で迷う項目は、誰が付けても迷います。1つの正解を無理に決めるより、2つの見方を並べて、ずれたところを残しておくほうが、あとから検証できます。ずれが多い項目の種類が分かれば、判定の基準そのものを直す材料にもなります。
実物を、再現してお見せします
以下はすべて再現サンプルです。実在の生徒の資料ではありません。実際のレポートと同じ構造・同じ書式で、単元・項目・数値・発言をこちらで作成したものです。個人が特定されうる内容は掲載していません。
まず、生徒本人が使う復習用の資料から。その回に扱ったことを全項目、一つも省かずに並べます。上澄みだけを載せると、載らなかった項目が存在しなかったことになるからです。
各項目にぶら下がっている一文が、「どこまでは自分で行けたのか」です。段階の記号だけでは、そこが分かりません。B1が3つ並んでいても、中身は同じではありません。だから一文を必ず添えています。
このあとに、全項目について確認用の問題・ヒント・合格の基準が続きます。旧版では完了した項目に問題を付けていませんでしたが、今はその日に完了する項目がないので、全項目に付きます。合格基準は「①○○と答えられる ②△△と説明できる。この2点で合格」という形に固定してあり、答え合わせを本人ひとりで完結できるようにしています。解答は最後にまとめて置き、途中では見られないようにしています。
そして次の回、この中のいくつかを口頭でお聞きします。そこで説明できたものが【できた】になります。
保護者の方に届くものは、書き方が違います
保護者の方に必要なのは問題演習ではなく、今どういう状態で、なぜそう言えるのかです。ですので報告用の資料は、すべての記述を3つの層に分けて書いています。冒頭で指摘を受けた「根拠が乏しい」への、直接の答えがここです。
結論だけなら、誰でも書けます。根拠がついて初めて検証できるものになり、実際のやり取りが引用されて初めて、書き手の主観が入る余地がなくなります。時刻が入っているのは、必要ならその場面を後から確認できるようにするためです。
報告用の資料には、このほかに分布と数字、当日ホワイトボードに書いた図、そして次回の授業で講師が口頭で確認する質問が載ります。この質問は事前に公開しています。抜き打ちにしないのは、家庭で予行演習ができるようにするためです。
カンバンとの連動を、いま準備しています
あるご家庭で、学習の進捗をカンバンボード(やることを付箋で並べ、完了したら移動させる方式)で管理し始めました。そこで出てきたご要望が、こういうものでした。
本当に完了なのか確かめてほしい。
もっともな話です。「終わった」は自己申告です。解けたつもりで先に進んでしまうと、あとでまとめて崩れます。かといって、ご家庭で毎回口頭確認をするのは現実的ではありません。
そこで、授業の冒頭で完了申告の出ている項目を口頭で確認し、その結果を同じ基準で判定して返す仕組みを準備しています。日を空けた確認と、やっていることは同じです。説明できたら完了として消す。できなければ、やることリストの先頭に戻す。判定基準はここまで説明してきたものと同一で、追加のルールはありません。
基準は公開し、仕組みは公開しません
ここまで判定の基準をすべて書きましたが、これを毎回の授業から作り出している部分については書いていません。項目をどう拾い、過去の記録とどう突き合わせ、どう資料の形にしているか。そこは公開の対象外にしています。
ただ、何をしているかの規模は書いておきます。1回の授業から、扱った項目を一つずつ切り出します。項目ごとに、その回の段階、どこまで自力で行けたか、次回の確認問題、合格の基準、そして仕様5に挙げた細かい記録まで付けます。それをその子の過去のすべての回と突き合わせ、同じ項目が再び出てきたら、新しく足すのではなく前の記録の続きとして積み上げます。ですので、回を重ねるほど「この項目は3回目で、前回はB2だった」という形で見えるようになります。
生徒用の資料も、保護者用の報告も、月次レポートも、面談資料も、この積み上げ一つから組み上がっています。数字が資料ごとに食い違わないのは、元が1つだからです。そして、ここに講師自身の判定がもう一本重なります。
もっとも、隠す意味はそれほど大きくないとも思っています。この基準は、真似しても機能しません。判定するには、授業中に講師が何を言ったかが全部残っている必要があります。促しだったのか、方向づけだったのか、答えだったのか。その区別ができる記録がなければ、この段階分けはただの言葉です。
そして、過去の記録は後から作れません。今日から貯め始めたものだけが、来年の材料になります。回を重ねて初めて「この単元は、この子の場合B3からB1まで平均何回かかるのか」といったことが見えてきます。そこまで来て、ようやく指導の側が予測を持てるようになる。今はまだ、その手前です。
- 検証できないものは、信用に値しないから。判定がおかしいと思われたときに、「この基準に照らして、この項目はB2ではなくB3では」と指摘できる状態にしておきたい。
- 間違っていたら直すため。実際この記事も、公開後に2度書き直しています。5段階を3段階に減らした今回が、そのうち大きいほうです。基準を出していなければ、ずれていることにも気づけませんでした。
- 数字の意味をご家庭と揃えるため。手を貸した項目が多い回の意味を、毎回口頭で説明し直さなくて済みます。
そのための仕様書として、この記事を置いておきます。
判定の基準をふくむ指導の仕組み全体は、SOLOGUE(ソローグ)のページにまとめています。
今どこまで自力で行けているか、一度見てみませんか
体験授業でも、同じ基準でレポートをお出しします。ご相談だけでも構いません。今のお子さんの状況を、一緒に確認するところから始めます。
