「それは何で?」を、20年、返され続けています。

授業のウラガワ ── 12

「それは何で?」を、
20年、返され続けています。

大学院のゼミで、ある教授にひたすら聞かれ続けた一言があります。「それは何で?」。あれから20年近く経ちますが、あのとき自分が答えた内容は、今でも鮮明に覚えています。理由が分かったのは、ずっと後になってからでした。この記事は、その質問の構造が、今の自分の指導法にそのまま流れ込んでいる話です。

柱①脳に優しい
インプット
柱② なるほどを
つくる変換術
2 / 3
柱③迷子にさせない
伴走
柱④揺るぎない
自信

大学院に通っていた頃、あるゼミの教授は、学生が何かを発表するたびに、決まって同じ一言を返してきました。

「それは何で?」

答えると、また同じ言葉が返ってきます。少し方向を変えて、もう一度。「で?それは何で?」。ひたすらその繰り返しです。正直、当時はしんどいだけでした。答えを教えてくれるわけでもなく、ただ問いだけが積み上がっていく。

ただ、不思議なことがあります。あの時、自分が説明した内容を、20年近く経った今でも、鮮明に覚えているのです。人間の脳は、深く考えさせられたものと、繰り返し使ったものを、優先して記憶するようにできています。意地悪な質問攻めに見えていたものは、その仕組みを分かっていた教授が、あえて選んだ指導だったのだと、今になって思います。

今、していること
気づけば、同じことを生徒にしている

今、生徒の授業で自分がしていることを振り返ると、あの教授と同じ構造をしています。生徒が何かを言葉にしたら、「それって何で?」と聞き返す。答えたら、また聞く。

20年をまたぐ「なんで?」の連鎖
大学院時代
教授
私に「それは何で?」を重ねる
当時の私
答えるたびに、頭をフル稼働させられる
生徒に「それは何で?」を重ねる
生徒
答えるたびに、頭をフル稼働させられる

ただし、私はあの教授のように、意地悪に質問だけを重ねることはしません。生徒が詰まったところには、ヒントを添えて、中学生が持っている知識の範囲内で、答えにたどり着けるように道を作ります。答えを渡さない、というところだけを引き継ぎ、渡し方は自分なりに調整しています。

実演 ── 奈良〜平安の土地制度
縄文・弥生は平気なのに、急に止まる場所

社会の授業で、多くの生徒がつまずく場所があります。縄文・弥生はスムーズに進むのに、古墳時代あたりから、急に争いや権力の入れ替わりが出てきて、止まる。単語は教科書に載っていて、なんとなく見た記憶はある。でも、なぜそれが起きたのかは知らない。単語の意味だけを、表面でなぞっている状態です。

ここで解説はしません。かわりに、現代の設定に置き換えて質問だけを重ねます。

あなたは今、小さな新規事業を立ち上げたばかりの経営者です。
周りは中国や朝鮮といった、超大手ばかり。
この状況で生き残るには、何が要りますか。

生徒は自分の言葉で考え始めます。「まずは自分たちの仕組みを変えないと」「お金も要る」「最後は技術で勝つしかない」。この時点では、まだ歴史の単語は一切出てきていません。本人の言葉だけで、そこまで辿り着かせます。

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ここで渡しているのは答えではなく、今の生徒が既に持っている感覚です。経営・生き残り・投資という感覚は、歴史を知らなくても持っています。そこに単語を後付けするから、記憶が「借り物」ではなく「自分のもの」になります。

701年の制度が行き詰まり、二段階で緩められた話

ここで、教科書の単語をようやくつなげます。奈良時代の土地制度は、実は一段階ではなく二段階の緩和策を経ています。ここを一段飛ばしで教えると、生徒は「なぜ墾田永年私財法が出てきたのか」が分からないまま、単語だけを覚えることになります。

土地を「自分のものにできる度合い」を、国が段階的に引き上げた記録
701年
大宝律令
班田収授法・租庸調を制度化。口分田は国のもの、耕作者は借りているだけ
723年
三世一身法
人口増で口分田が不足。開墾した土地を3代の間だけ私有できる優遇策を提示
743年
墾田永年私財法
3代限定でも開墾が進まず、思い切って永年(ずっと)私有できる形に引き上げ

これを、さっきの「新規事業を立ち上げた経営者」の続きとして渡します。国は最初、3代だけ土地を持たせる優遇策を出した。それでも人は本気で開墾してくれなかった。だから思い切って、一生モノにした。生徒はここで「あ、それって最初の優遇策が弱かったから、もっと強くしたってこと?」と、自分で繋げます。

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「墾田永年私財法」という単語も、分解して渡します。墾田=田んぼを切り開く/永年=ずっと/私財=自分のもの。単語の意味と、その単語が生まれた経緯の両方が、この時点で本人の中に同時に入ります。

教える側が最初に単語を出していたら、この繋がりは生まれません。質問だけを重ねて、生徒本人にここまで組み立てさせたから、単語が後から自然にはまる場所ができているのです。

効く子・効かない子
自己説明が効くのは、点がある子だけです

ここまで読むと、万能の技法のように見えるかもしれません。ですが正直に書きます。この方法が効くのは、ある程度の前提知識、いわば「点」を既に持っている子だけです。

効くパターン
点はある。繋がっていないだけ
経営・生き残り・お金という感覚は既に持っている。単語も教科書でなんとなく見ている。足りないのは、点と点を結ぶ線だけ。質問を重ねると、本人の力でその線が引ける。
効きにくいパターン
点も、言語化の土台もない
予習もなく、そもそもの語彙や前提知識が足りていない。言葉にする経験自体が少ない子には、質問を重ねるほど沈黙が増え、最初は苦行になる。
⚠ 点がない子に、いきなり質問だけを重ねるのは逆効果です。その場合は、先に最低限の点(前提知識)をこちらから渡し、レクチャー寄りに切り替えます。自己説明は、渡す点を選んだ後に使う技法であって、最初から使う技法ではありません。
この技法と、自分の教え方
理論を先に学んだのではなく、20年前に体で受けていた

この指導法に、後から名前がついたのだと思います。心理学では自己説明効果と呼ばれ、理由を自分の言葉で組み立てさせるほど記憶に残る、とされています。ですが私の場合、順序が逆です。理論を学んでからゼミを受けたのではなく、20年前にゼミで体に入れられたものが、今の指導の骨格になっている。

自分の指導スタイルとの噛み合わせ
  • WHY階層と相性がいい。「それは何で?」を重ねる構造は、そもそもの根っこの原因を辿るWHY診断そのものです。
  • 答えを渡さない、が前提。診断も自己説明も、こちらが正解を先に言った瞬間に成立しなくなります。
  • 点の有無を先に見極める。質問を重ねる前に、その子に足場となる点があるかどうかを判断するのが、私の役目です。

あの教授が、なぜあの指導をしていたのか。当時は分かりませんでした。今、自分が同じことを生徒にしていて、ようやく理由が分かります。意地悪だと思っていた質問は、20年経っても消えない記憶を作るための、最短ルートだったのだと思います。

次回は、柱②の3つ目、メタ認知(解法の選び方を自覚させる技法)について書く予定です。

答えを渡す前に、まず何を持っているかを見ます

質問を重ねる指導は、その子が今どこまで持っているかを見極めてから始まります。まずは無料相談で、今のお子さんの状況を一緒に確認しませんか。

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