授業は、終わった瞬間に
ほとんど消えています。
60分の授業で、自分が何をどう話したか。台本があるわけではないので、正直、講師である私も一字一句は覚えていません。聞いていた生徒は、もっと覚えていない。この状態で「あとは自分で復習してね」と言い続けることに、ずっと引っかかっていました。この記事は、その引っかかりに一つ答えを出した日の話です。
中学2年生の理科。化学変化のところで、こんな場面がありました。
言葉にすると、たったこれだけです。最初の問いかけでは出てこなかった。具体例を1つ出したら、自分で「組み合わせ」という言葉にたどり着いた。この10秒に、その子の今の状態がほぼ全部出ています。
知識が無いわけではない。ただ、抽象的なまま問われると言葉にならない。具体物を置くと、そこから引き出せる。次に必要なのは、同じ内容をもう一度説明することではなく、具体例なしで言えるかどうかを、日を空けて確かめることです。
うちでは毎回の授業で、その項目にたどり着くまでに講師がどれだけ手を貸したかを記録しています。点数でも理解度でもありません。何も足さずに自分で説明し切ったのか、こちらが何か渡してたどり着いたのか。手の掛かり具合そのものを、項目ごとに残しています。
理解度は外から見えません。「分かった?」と聞けば、たいていの子は「分かった」と答えます。嘘ではなく、本人にも分からないからです。ですが、講師が何を言ったかは記録に残る事実です。そこだけを見れば、誰が判定しても同じ結果になります。
先ほどの場面なら、こちらが具体例を渡した時点で「自力ではない」。ただし答えは本人が出しているので「説明してしまった」でもない。その中間として記録されます。この段階分けの全定義は、判定基準を全部公開した記事に書いています。
この記録があるから、次の授業で何を確認すべきかが決まります。できたところは外して、まだ手が要るところにだけ問題を出し、日を空けてもう一度聞く。ここまでは、以前から回していた仕組みです。
ある日ふと気づきました。この記録は、私が次の一手を決めるための道具です。本人が読み返して、あの授業を思い出すためのものではありません。
生徒の手元に残っているのは、要点をまとめたスライドと、確認用の問題です。「原子の組み合わせが変わる」という結論は書いてある。でも、あの日、自分が最初に答えられなくて、具体例を出されて、そこから自分で言葉にした——その経験そのものは、どこにも残っていません。
これは他社と比べてどうという話ではありません。塾でも学校でも家庭教師でも、授業そのものは終わった瞬間に消えます。だから最終的には「参考書に全部書いてあるから、自分で読んで覚えてね」になる。数年前の自分も、実質そこで止まっていました。
授業には録音が残っています。文字起こしの精度はまだ荒いのですが、その日に何を話したかという事実だけは、そこに残っている。ここから、その日のやり取りをエピソードとして起こす仕組みを作りました。丸一日かかりましたが、形になりました。
大事にしたのは、私が話した内容から逸脱させないことです。背景の説明は足しますが、出発点はあくまで、その日そこで交わされた言葉。だから読むと、本人の中で「そういえば、こんな話をしたな」が戻ってきます。
結果として、同じ1つの場面が、3つの形で残るようになりました。
→ 生徒「組み合わせ」
①と②はこれまでもありました。③だけが、どこにも無かったものです。その日そこにいた本人にしか意味を持たない一行が、扱った項目すべての入り口に付いています。
以前、自分の授業を文字に起こして読み返したことがあります。あのときは、自分の指導の型を知るために読みました。今回は逆で、生徒が自分の思考を読み返すために起こしています。同じ録音から、向き先の違うものを作った形です。
この冊子は、録音をもとにAIが文章に起こしています。使う以上、間違いは混じります。ですので「どこまで任せて、どこから自分が持つか」を先に決めました。
特に決めたのが、聞き取れなかったところを、隠さずに印として残すという点です。もっともらしく直してしまうと、直したこと自体が見えなくなります。そうではなく「ここは聞き取りが正確でない可能性があります。次の授業で一緒に確認しよう」と書いて残す。
冊子の冒頭にも、こう入れています。「この冊子は、授業の録音をもとにAIが文章に起こしています。聞き取れていないところもあるので、気になったところは先生に聞いてね」。
この線の引き方は、指導の考え方とまったく同じです。判断は人が持つ。道具は候補を出すところまで。
- 測る。その項目に、どれだけ手を貸したか。感覚ではなく記録として。
- 分ける。自力で行けたところと、まだ手が要るところを切り分ける。
- 確かめる。日を空けて口頭で聞くまで、完了にしない。
- 思い出す。その日のやり取りを、本人が読み返せる形で残す。
完璧ではありません。文字起こしの精度はまだ十分ではないし、AIが書く以上、間違いは混じります。それでも、あの日その子が何と答えて、どこで止まったかを残しているのは、この冊子だけです。そこは参考書にも、塾のテキストにも書いてありません。
まだ試験運用の段階です。ご同意をいただいたご家庭で使っていただきながら、気づいたことを教えてもらって直していきます。この仕組み自体も、測って、分けて、直して、また確かめる、の繰り返しで作っています。
お子さんが今どこまで自力で説明できて、どこから手が必要なのか。まずは無料相談で、現状を一緒に確認しませんか。
