図から入らない。
詰まった場所にだけ、図を差し込む。
「わかりやすい図があれば、みんな理解できる」——教材選びでよく聞く話ですが、私はそう思っていません。どんなに丁寧な図でも、要らない子には要らないし、必要な子にだけ、必要なタイミングで出さないと効きません。この記事は、中学英語の時制指導で、図をいつ・誰に出すかを見極めている話です。
インプット 3 / 3 ・完了
つくる変換術
伴走
自信
中学英語の時制は、多くの子が最初につまずく単元です。現在形・過去形・未来形、それぞれの進行形、そして現在完了形。最近の参考書には、時間軸をきれいに図解したページがたくさんあります。ですが、私は最初から図を渡しません。
理由は単純です。わかる子は、図がなくても文章を読むだけで頭の中に時間軸を再現できます。わからない子は、どんなに整った図を渡しても、一生分からないままです。図は理解の入口ではなく、理解が崩れた場所に当てる処置だと考えています。
先に図を渡してしまうと、その子が本当は文章だけで理解できたのか、図に頼って表面だけなぞったのかが分からなくなります。図は便利すぎて、理解を確認する前にその子の理解度を隠してしまうんです。
だから私はまず、文章を読ませて、それを自分の言葉で要約させます。ここで詰まらなければ、その子はもうその文章を理解しています。図は要りません。詰まったときに初めて、一緒に図を書き始めます。
実際の進め方はこの分岐です。
読ませる
要約させる
→ 図は出さず先へ
→ ここで初めて図
要約させる段階は、以前の記事で触れた自己説明の技法にも重なります。図を出す・出さないを決めるための診断の一手として、要約が機能しています。
詰まった生徒に対して、実際にこう問いかけます。「I go to school. これ、今日も行くし、昨日も行ったし、明日も行くよね?」そのうえで、時間軸を一緒に書きます。
I go to school.
状態・習慣として、ずっと
ここで聞きます。「現在形って、一番最初に習うやつだけど、この時間軸だとどこに当てはまる?」多くの子は最初、「今この瞬間」だけを指そうとします。そこで、「今この瞬間」を表すのは現在進行形であって、現在形はもっと広い——過去も今も未来もずっと続く”状態”や”習慣”を表すということに、自分で気づかせます。
図を先に見せていたら、この「あ、現在形って”今”じゃないのか」という気づきの瞬間は生まれません。文章と自分の理解のズレに、まず本人がぶつかる。図は、そのズレを言葉にする道具として後から出てくるのがポイントです。
時制の単元は、現在形・過去形・未来形、それぞれの進行形、そして最後に現在完了形まで続きます。項目数は多いですが、最初に一緒に書いたこの1本の時間軸に、あとから項目を重ねていくだけです。
覚える図が増えていく。1本の軸に重ねていけば、増えるのは項目で、覚え方は増えない。
現在完了形でつまずく子の多くは、時制そのものより、この時間軸の土台がぐらついていることが原因です。土台さえ自分の言葉で組み立てられていれば、複雑な単元も、同じ軸の上に置くだけで済みます。
最近の参考書は、時制に限らず、図解のクオリティがどんどん上がっています。ですが、良い図を持っていることと、それを使いこなせることは別の話です。
- まず読ませる。図なしで、その子がどこまで自力で理解できるかを先に見る。
- 自分の言葉で要約させる。ここで詰まったかどうかが、図を出す・出さないの分岐点になる。
- 詰まった場所だけに、図を当てる。単元全体に一律で図を配るのではなく、その子がつまずいた1点に絞って一緒に書く。
言葉と図を両方使うこと自体は、多くの教材がすでにやっています。違うのは、その図を「いつ」「誰に」出すかという判断です。この見極めができない指導者は、良い図を持っていても、全員に同じタイミングで配ってしまい、わかる子には退屈を、わからない子には表面的な理解しか残しません。
今回やったことは、特別な教材を使ったわけではありません。文章を読ませて、要約させて、詰まった子にだけ、一緒に図を書く。それだけです。
それでも、生徒は「現在形≠現在進行形」という、多くの子がごちゃ混ぜにするポイントに、自分で気づけました。図を先に渡さなかったからこそ、そのズレに本人がぶつかり、自分の言葉で埋め直すことができたんだと思います。
柱①「脳に優しいインプット」は、これで3本(認知負荷・先行オーガナイザー・デュアル コーディング)揃いました。次回からは柱②、「なるほど」をつくる変換術に入ります。
図を渡すだけでは見えない、理解の抜けがあります。どこで詰まっているのかを、対話の中で一緒に見つけていきます。
