根っこはいつも、
WHYのほうにある
用語はちゃんと言えるのに、少しひねられると解けなくなる。その理由に、私はある資格試験の勉強をしている最中に、ふと気づかされました。教えることと、まったく関係ないはずの場所で。
つい先月のことです。私はある資格の試験勉強に追われていました。PMP——プロジェクトマネジメントの国際資格です。ちょうど7月の頭に試験制度の改定が控えていて、「その前に取り切ってしまいたい」と、短い期間にかなり詰め込んで勉強していた時期でした。
教えることとは、まったく関係のない勉強のはずでした。ところが、あるページを読んでいたとき、ふいに——最近見たばかりの、ある生徒の顔が浮かんだんです。
プロジェクトマネジメントには、はっきりした順番があります。何かを始めるとき、いきなり作業に手をつけたりはしません。まず一番はじめに固めるのは、「そもそも、これは何のためにやるのか」という部分です。
この一番上流にある「なぜやるのか」を、きちんと文書にして関係者で握る。プロジェクトの世界では、これを「憲章」と呼んだりします。名前はどうでもいいのですが、大事なのは順番です。「なぜ」が決まって、はじめてその下に「どうやって(HOW)」が立ち、さらにその下に「具体的に何を・いつ(WHAT・WHEN)」が並んでいく。
逆は、ありません。「なぜ」が抜けたまま、いきなり細かい作業(WHAT)だけが動いているプロジェクト——これは、少し想像すればわかると思います。ふだんは回っているように見えても、想定外のことが一つ起きた瞬間に、どう判断していいか誰にも分からなくなる。根っこがないので、応用が利かないんです。
私が詰め込みでこのあたりを読んでいたとき、頭に浮かんだ生徒の顔——それは、こういう子でした。
その瞬間、二つのものが私の頭の中でぴたりと重なりました。「なぜ」が抜けたまま作業だけが動いているプロジェクトと、「なぜ」が分からないまま用語だけを覚えている勉強は、まったく同じ形をしている。
言葉にしてみると当たり前に聞こえるかもしれません。でも私にとっては、長いあいだ感覚でしか掴めていなかったものが、はじめて構造として見えた瞬間でした。並べて描くと、こうです。
上流の高いところは、どちらも「WHY」で詰まっている。
用語や答え(WHAT)は、この図でいえば一番下の枝葉です。枝葉だけを一生懸命に覚えても、根っこである「なぜ(WHY)」がつながっていなければ、幹を通して支えられていない。だから、少し問題をひねられて角度を変えられただけで、ぽきっと折れてしまう。丸暗記した知識がテストで裏切るのは、本人の努力が足りないからではなく、支える根っこがないからなんです。
面白いのは、テストで問われる順番と、本当に身につく順番が逆だということです。
テストで最初に目に入るのは、たいてい用語や答え(WHAT)です。だから多くの子は、そこから覚えようとします。ところが、いざ本当に使える知識として定着するのは、一番上の「なぜ(WHY)」が腑に落ちたときなんです。根っこが通ると、その下のHOWも、一番下のWHATも、後から芋づる式についてくる。逆に、下から順に丸暗記で積み上げても、根っこは自然には生えてきません。
私がPMの勉強で体感したのも、まさにこれでした。細かい用語を先に丸暗記しようとするとまるで頭に入らないのに、「そもそも、この工程はなぜ必要なのか」という上流の理由が腑に落ちた瞬間、その下にぶら下がっている細かい知識が、急にするすると入ってくる。大人の資格勉強でも、中学生の理科や社会でも、頭の中で起きていることは変わらないんだな、と思いました。
この気づきがあってから、私が生徒を見るときの目は、はっきり変わりました。
用語を答えられるかどうかは、正直あまり見ていません。それは一番下の枝葉なので、答えられても「根っこがある証拠」にはならないからです。私が探しているのは、その子の中で「なぜ」がどこまでつながっているか。どの高さで根っこが切れているか。そこさえ見つかれば、あとはその一点を一緒に埋め直すだけで、下の枝葉は後から勝手についてきます。
「教えるのが上手い先生」というと、難しいことを噛み砕いて丁寧に説明できる人、というイメージがあるかもしれません。でも私がやりたいのは、少し違います。丁寧な説明を”足す”ことよりも、その子の根っこがどこで切れているのかを見つけて、そこだけを直すこと。説明の量ではなく、直す場所の精度で勝負したいと思っています。
——ちなみに、プロジェクトの「なぜ(憲章)」の話は、本当はもっと奥が深くて面白いところです。それはそれで、いつか一本きちんと書いてみたいと思っています。
では、「なぜ(WHY)が抜けている」子を、実際にどうやって見つけて、どう直すのか。
用語は言えるのにテストで点にならなかった、ある生徒の話を、次に書きます。
Learning PM / 竹内 勇人
診療放射線技師 × PMP × 個別指導歴10年・100名超。「教える人」ではなく、目標まで自走できるよう学びのプロセスを設計・管理します。
