なぜ、「丸暗記」はテストで裏切るのか

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なぜ、「丸暗記」は
テストで裏切るのか

用語はちゃんと言えるのに、少しひねられると点が取れない。真面目にやっているのに、なぜか結果に結びつかない。——もしお子さんがそうなら、足りないのは努力の量ではないかもしれません。ある中学2年生との、ひとつの授業の話をします。

Learning PM / 竹内 勇人

お子さんがテストから帰ってきたとき、まず何と声をかけますか。
——たぶん、多くのご家庭で「テスト、どうだった?」だと思います。私も指導者として、点数はいちばん手っ取り早い手がかりなので、つい最初に聞きたくなります。

でも最近、私はこの問いに、ひとつ足りないものがあると気づきました。「どうだった?」で分かるのは、点数、つまり”結果”だけだということです。上がった、下がった。それは分かる。でも——なぜその結果になったのかという肝心の部分は、点数をいくら眺めても見えてきません。

どこで点を落としたか、までは確認できます。家庭教師の教科書にも「どの問題を間違えたか確認しましょう」と書いてあり、私も長年そうしてきました。でも、それでもまだ”どこ”止まりなんです。「なぜ、そこで落とすのか」——そこまで降りないと、本当の原因には手が届きません。

原因を見ないまま、結果だけを見ている。
それでは、何度テストを見返しても、同じ場所でつまずき続けます。

これは抽象的な話に聞こえるかもしれません。なので、実際の授業でこれがどう起きるのかを、ひとつお見せします。丸暗記が得意な、ある真面目な生徒の話です。

「丸暗記」は、サボりではなく回避だった

その子は、とても真面目でした。言われたことはきちんとやる。学校のワークも埋めるし、用語もある程度は覚えている。一見、まったく問題のない勉強ぶりです。

ただ、ひとつ特徴がありました。興味が持てないことは、丸暗記で乗り切ってきたんです。用語を答えるだけの問題、穴埋め——つまり「何(WHAT)」を問う問題は得意。でも、それを裏返して「なぜ(WHY)」を問うと、とたんに手が止まる。丸暗記は、サボりではありません。興味の湧かない領域を切り抜けるための、その子なりの賢い回避策だったんです。ただ、その回避策は、問題を少しひねられた瞬間に効かなくなります。

ある日の、太平洋ベルト

中学2年生の地理。ワークに「太平洋ベルト」という答えがあり、そこにバツがついていました。私はまず、こう聞きました。

先生
「太平洋ベルトって、何?」
生徒
「えっと…太平洋側に集中してて…」(ワークの問題文を、少しなぞりながら答える)

答えられてはいます。でも、これはワークの問いをそのまま裏返しただけ。用語(WHAT)の表面をなぞっているだけで、中身とはまだ繋がっていません。そこで、一歩だけ踏み込みます。

先生
「じゃあ、なんで”ベルト”なんだろう?」
生徒
……(沈黙)

ここで止まる。でも真面目な子なので、投げ出さずに考えようとします。私は答えを言いません。かわりに、言葉そのものをヒントにします。

先生
「ベルトって腰に巻くよね。あれ、斜めに巻く? 」
生徒
「ううん、水平に巻く」
先生
「水平に巻くってことは……同じライン上に、何かが集まってるってことじゃない? じゃあ、何が?」
生徒
「人口とか、技術とか、工場が…」

——ここで、その子はまたWHATに戻ってしまう。人口、技術、工場。単語は出てくる。これが、丸暗記で乗り切ってきた子の癖です。少し詰まると、覚えている単語で埋めようとする。だから、もう一段だけ深く聞きます。

先生
「じゃあ、なんで京浜も、中京も、阪神も、北九州も、みんな同じラインで、しかも”太平洋側”なんだろう?」
生徒
……(沈黙)

二度目の沈黙。ここが、この子の理解が本当に切れている場所です。用語は言える。場所も言える。でも「なぜそこなのか」だけが、すっぽり抜けている。ここまで来て、ようやく本当の原因にたどり着きました。あとは、そこを一緒に埋めていきます。

先生
「日本は資源が少ないよね。だから海外から、どうするんだっけ?」
生徒
「……加工貿易」
先生
「そう。意味は?」
生徒
「資源を輸入して、加工して、また輸出する」

加工貿易という言葉も、その意味も、ちゃんと言えました。知識は、持っていたんです。ただ、それが太平洋ベルトと繋がっていなかった。だから、繋げにいきます。

先生
「海外から資源を受け取って、また海外へ送り出す。それには、工場はどこにあると都合がいい?」
生徒
「……日本海側? 太平洋側?」
先生
「地図を見てみようか。太平洋の向こうにはアメリカ、オーストラリア。日本海の向こうには? 荷物を出したり受け取ったりするなら、どっちが便利?」

ここで初めて、実際に地図を見せます。言葉で説明を足すのではなく、自分の目で位置関係を見て、考えてもらう。しばらくの沈黙のあと——その子は、こう言いました。

「だから太平洋側にベルト状に工業地帯が並んでて、加工したりするのに人や技術が必要だから、人口も多くなるんだね」

私は、ほとんど何も”教えて”いません。ただ、問いを重ねて、根っこまで一緒に降りただけです。そして最後、バラバラだった知識——太平洋ベルト、加工貿易、人口、工業地帯——が、その子自身の口の中で、一本の線に繋がりました。これが、丸暗記では絶対に届かない場所です。

「太平洋ベルトとは?」から、根っこへ降りた道のり
表層
太平洋ベルトって何? → 用語をなぞって答える
一段下
なぜ”ベルト”? → 沈黙 → 言葉の意味から考える
二段下
なぜ太平洋側の同じライン? → 沈黙 → ここが切れていた
根っこ
資源が少ない → 加工貿易 → 地図で位置関係 → WHY が通る
根っこが通った瞬間、用語・貿易・人口がひとりでに繋がって、その子の言葉で出てきた。
点数を聞くだけでは、ここには一生たどり着かない

もしこの子のテストの点数だけを見ていたら、「太平洋ベルトを間違えた → 覚え直させよう」で終わっていたはずです。それでも次のテストで太平洋ベルトは書けるようになるかもしれません。でも、少しひねられたら、また崩れます。根っこが通っていないからです。

「どこで落としたか(WHAT)」の確認は、誰でもできます。大事なのはその先、「なぜ、そこで落とすのか(WHY)」まで降りることです。そしてその”なぜ”は、点数を眺めていても、ワークの丸を数えていても、決して見えてきません。対話をしながら、その子がどこで詰まるかを一つずつ確かめて、はじめて姿を現します。

丸暗記がテストで裏切るのは、努力が足りないからではありません。覚えた知識を支える”根っこ”が通っていないからです。そして根っこは、上から一方的に説明を注いでも生えません。本人が自分の足で、そこまで降りていったときにだけ、通ります。私が授業でやっているのは、その一歩一歩に、隣で付き添うことです。

お子さんの「なぜか点に結びつかない」が、どこで根っこが切れているせいなのか。
その場所を一緒に見つけるところから、始められます。

Learning PM / 竹内 勇人
診療放射線技師 × PMP × 個別指導歴10年・100名超。「教える人」ではなく、目標まで自走できるよう学びのプロセスを設計・管理します。

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